研究領域 | 新海洋像:その機能と持続的利用 |
研究課題/領域番号 |
24121009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒倉 寿 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (50134507)
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研究分担者 |
有路 昌彦 近畿大学, 農学部, 准教授 (40512265)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 海の生態系サービス / 経済価値 / コンジョイント分析 / 不可欠性 / 貢献意識 / 支払い意思額 |
研究概要 |
昨年度までに行ったウェブ・アンケートに加えて、新たなウェブアンケートを実施した。新たなアンケートでは、環境保全に対する貢献意志と性格的特徴の関係を調べるための質問も行うとともに、コンジョイント分析により、環境保全に対する将来投資と、現状の改善に対する支払い意思額を算出した。その結果、環境保全行動への貢献意欲の高い人の性格として、リーダーシップがあり規範意識が高く、長期的な安定志向が強いという特徴が現れた。また、現状の改善に対する支払い意思額よりも将来の改善への投資意思額の方が高いということが示された。以上のことから、環境保全に対する支払い意思の根底には、現状の環境劣化に対する問題意識よりも、将来の劣化に対する不安や環境を劣化させないという規範意識があるものと推測された。また、昨年度からのアンケート結果を解析した結果、調査対象地域の日本人は、生態系サービスの機能を、日常生活に必要な機能、直接的必要は感じられないがその役割を認識している機能、文化的な機能という3分類で認識していることが示された。アンケートの対象者は、上記の順序で高い必要性・不可欠性を認識しているものの、実際の保全行動への貢献意思との相関性の高さは、文化的機能、日常生活に必要な機能、直接的必要は感じられない機能の順序であり、不可欠性の認識は、かならずしもその保全に対する行動に結びついていないことが示された。また、コンジョイント分析による環境保全に対する支払い意思額の高さには、地域性と収入の影響が見られた。特に、水産物の供給機能維持に関する支払い意思額には、収入レベルの影響が強く見られ、一般的には、水質浄化や、二酸化炭素吸収機能に対する支払い意思額が高いのに対して、高い収入階層に人々では、水産物供給機能の維持に対する支払い意思額が、水質浄化や二酸化炭素吸収機能に対する支払い意思額の2倍の値であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
供給側からのアプローチについては、生産供給に関わるコストを算出する必要があり、そのためには、供給側の供給メカニズムを明らかにした上で、コスト要因を特定しなければならない。したがって、自然科学関連の研究班による研究成果を待たなければ作業が進められない。プロジェクト前半においては、需要側の要素について、集中的に調査分析を行った。需要側から考えれば、価格を決めているのは、人々が物やサービスに対して感じる効用である。そこで、ウェブ・アンケートによって、日本人一般が感じる海の生態系サービスの効用をいくつかの因子に分け、そのそれぞれに対する不可欠性の認識と、環境保全意欲との相関の強さを調べた。さらに、食料供給・二酸化炭素吸収・水の浄化という生態系サービスに対する支払い意志額をコンジョイント分析によって調べ、性別、地域、収入階層間での支払い意思額の違いについて検討した。また、これらとは別に行ったアンケートの結果を利用して、海域別に支払い意思額を求め、日本全体としての海洋生態系サービスに対する税負担意思額を求めた。 以上の経緯で、需要側からの分析については、ほぼ十分な結果が得られた。今後は供給側からの分析が残されているが、これについては、現在、自然科学分野の研究が予定通り進んでおり、十分なデータの供給が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
我が国におけるアンケート調査の実績から、海外においても、ウェブ・アンケートによって、十分に解析可能な質量のデーターが得られるものと期待している。 現在までに得られたウェブ・アンケートの結果の解析をすすめると同時に、外国において同様のウェブ・アンケートを行い、世界全体としての海の生態系サービス機能保全に対する支払い意思額の総額を推計する。その一方で、今後は、供給側からの価格推定に研究の重心を移す。そのためには、自然科学分野の研究者からの適切なデーターが必要である。今年度前半は、総括班とも相談の上、自然科学からデーターを提供していただくために、必要な情報リスト、データーの形を決めることを重要課題とする。 なお、部分的に海の機能を他の技術で代替している例としては、わが国における水産生物の孵化放流事業がある。孵化放流事業の経済性については、その実態を詳細に分析するる意義があり、詳細なデーターが得られるものと思われるので、その可能性を検討する。
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