研究領域 | 新海洋像:その機能と持続的利用 |
研究課題/領域番号 |
24121009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒倉 寿 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (50134507)
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研究分担者 |
有路 昌彦 近畿大学, 農学部, 准教授 (40512265)
脇田 和美 東海大学, 海洋学部, 准教授 (60734902)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 海洋 / 生態系サービス / 経済価値 / 支払意志額 / 海の管理 |
研究実績の概要 |
1)ウェブ・アンケート。・データを用いて、コンジョイント分析を行い。日本居住者の、公海の水産物の生産機能、二酸化炭素の吸収機能、水の浄化機能に対する限界支払意志額を計算した。 その結果、1%の機能向上に対する支払意志額は、水産物の生産機能、二酸化炭素の吸収機能、水の浄化機能について、それぞれ、年間、0.06米ドル/年、0.19米ドル/年、0.15米ドル/年であった。これらの支払意志額には、人々の属性によって違いがあり、食文化、災害体験、報道、教育などが影響しているものと考えられた。現時点では、我が国では、一般に、食糧供給は満たされており、その向上に対する期待は必ずしも高くないことが、水産物の供給機能に対する低い支払意志額に影響しているものと考えられた。 2)生態系を人為的に管理することに対する人々の受けとりかたは、教育や、文化的な背景によって異なるものと考えられる。そこで、文化的な背景が異なると考えられ、沿岸海域として東シナ海を共有する日中韓ので、東シナ海を中心に、海洋とその管理に関する一般市民の意識をネット・アンケート調査によって行った。 その結果は、現在分析中であるが、単純集計では、我が国に比べて、中国の在住者の方が、海洋の持つ諸機能に関心を持っているに人の割合が高く、海洋の諸機能の利用に対する期待も大きいことが示された。海洋の生態系の機能には、未知の部分が多いと認識していることは、日中に共通していたが、我が国では、海洋の機能の未知の部分に対する畏敬の気持ちが強く、未知のままに柔軟に対応しようとする傾向が強いのに対して、中国では、未知の部分を克服すべき科学的課題ととらえる傾向が強く見られた。また、中国でも、国際合意に基づいて、地域機関を含めて、国際機関が海洋の管理を行うべきとする意見の支持者が多かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画にあった、海洋の海区の経済的価値の評価はまだ行っていない。これは、自然科学分野の研究において、当初の予想よりも多くの海区区分の提案がなされ、経済価値値を評価対象の海区が特定できなかったためである。しかし、一次生産量、漁業生産など、経済価値の評価の基礎となる数値を収集し、これらを用いて、二次元的なマップを作ることも試行的に行っており、代替法により、生態系機能別に、経済価値のマップをつくることも可能にした。また、海区別の比較はできないが、全体として、顕示選好法(代替法)による経済価値と、表明選好法(コンジョイント分析)による価値の比較を行うことも可能である。 以上は、限界価値に関する分析であるが、環境変動や人々の生活・価値感の変化を考えると、時間選好を考える必要があるが、これについても、日本居住者に対するアンケートデータに基づき、コンジョイント分析を行い、生態系サービスに対する支払意志額に対する割引率を求めた。その結果。割引率が極めて低い、ないし、負の値になることを見出した。これについての解釈は、贈与価値とする説、時間選好は距離依存的に低減するとする説などが考えられ、現在検討中であるが、この要素を含めて、将来価値を正確にマップとして示すことは、現状では不可能であるが、こうした議論を、海洋生態系の管理に関する国際合意に反映させるべく発信することは、本プロジェクト期間内に可能である。
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今後の研究の推進方策 |
自然科学系の研究班から提供される海区区分のひとつを選択し、これに基づいて、顕示選好法によって、海区ごとの経済価値を計算し、マップを作成する。海区区分の選択は、区分の安定性とシナリオ分析への適合性を基準とする。 上記のマップに、何らかの外力が加わった場合の変化について、地球温暖化あるいは海洋肥沃化などの外生変数の変化をシナリオとして与えて、その変化を例示する。 将来価値の変化を考えるために、現在、まで行ったアンケート調査の結果を統合して、人々の海の生態系に対する効用を作り出す要因について分析を行う。この分析の中に、将来価値の割引率が小さい、ないし、負の値となる心理的な要因についても分析を行う。
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