研究領域 | 新興国の政治と経済発展の相互作用パターンの解明 |
研究課題/領域番号 |
25101002
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研究機関 | 政策研究大学院大学 |
研究代表者 |
園部 哲史 政策研究大学院大学, 政策研究科, 教授 (70254133)
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研究分担者 |
MUNRO Alistair 政策研究大学院大学, 政策研究科, 教授 (10515654)
大塚 啓二郎 政策研究大学院大学, 政策研究科, 特別教授 (50145653)
山内 慎子 政策研究大学院大学, 政策研究科, 助教授 (50583374)
松本 朋哉 政策研究大学院大学, 政策研究科, 助教授 (80420305)
ESTUDILLO J P 政策研究大学院大学, 政策研究科, 教授 (90456343)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 政策研究 / 経済政策 / 新興国 / 政治学 / 開発経済学 |
研究実績の概要 |
本研究班では、新興国経済にとって重要な政策課題に関して、政治家による利益誘導、汚職、行政能力の制約といった政策実施上の問題も視野に入れたインパクト評価を、個人、家計、企業などのデータを用いて実証的に行っている。今年度実施した主な調査は、以下の通りである。 1)インドの家計調査:多くの新興国で都市部経済の活況により労働需給が逼迫し、農村から都市部への急速な労働移動が起こっている。そうした急激な変化が、農村での経済活動や農民・労働者に与える影響を分析するため、インドで農村家計調査を行った。 2)エチオピアのゴマ農家調査:低地に位置するHumera地方では、数百haの大農から1 ha規模の小農がゴマを栽培しているが、このように大農と小農が併存することは珍しく、この地域は「農業生産の効率性が高いのは大農か小農か」という重大な実証課題を検証するために打って付けの事例である。そこでゴマ農家に関するデータを収集した。 3)モバイルマネー(MM:携帯電話による預金・送金システム)と家計貯蓄・所得:インドやアフリカの新興国などで、MMの普及が急速に進んでいる。以前は、農村では金融サービスへのアクセスが非常に困難であったが、最近になって、一般農民がそうしたサービスをMMを介して受けられるようになった。こうした金融市場の大きな変化が、農村の貧困層に及ぼす影響を検証するために、既存のウガンダ農村調査の対象地域で追加調査を行った。 4)女性の人的資本形成と社会進出に関する研究:多くの新興国ではアパレル産業などの軽工業の成長を基軸として、急速な構造変化が起きている。そうした産業ではしばしば女性が比較優位をもつため、都市部で女性の雇用が大幅に増えている。こうした都市部の労働市場の大きな変化が農村家計、教育投資へ与える影響を、インドネシアの家計調査データを用いて男女の就業機会の違いを考慮しつつ、分析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究班は、調査データに基づいた実証研究を行い、その成果を国際学術雑誌等に掲載し、研究結果を広く世界に発信していくことを目的としている。こうした目的に照らすと、達成度を評価する基準は、1)調査の実施状況、2)分析および研究の質と進捗状況、3)成果の発信状況の3点に集約されよう。 まず、(1)に関しては、平成26年度に実施予定していた調査プロジェクトは、ほぼ当初計画通りに実施することができた。 次に(2)に関しては、平成26年度には、月例の論文報告会を10回実施して随時研究成果を報告し、研究の質および進捗状況を確認している。6月には国内外の気鋭の研究者を招待して新興国の人的資本と労働移動に関するワークショップを行って活発に意見を交わした。また、1月にも国際ワークショップ(Hayami Conference)を開催し、本研究班の研究者が中心となって研究成果を報告し、意見の交換を通じて論文の質の向上を図った。更に、本領域研究の他班と共催で行われる研究会において、他分野の研究者との活発なインタラクションを通じ、より学際的な研究へと発展するように努めた。 最後に(3)に関しては、平成26年度の本領域研究班の成果物として、研究代表者および研究分担者による査読付き国際学術雑誌への論文の掲載実績は、11本、著書・編著が3冊、国際学会等での研究報告が、10回となっている。それらに加え、国際学雑誌への投稿中の論文も複数あり、近い将来それらの多くが掲載されることを期待される。こうした成果物は、本プロジェクトのウェブサイト上(www3.grips.ac.jp/~esp)で随時報告し、本プロジェクトに関心のある研究者・実務家に対し、情報を発信することを心がけている。 以上の点からプロジェクト全体として概ね順調に進展しているといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、過去2年間に現地調査等を通じて得られたデータの分析・論文の執筆を進めるとともに、主に以下の研究課題に新たに取り組む。 1)森林管理と土地所有制度:中国政府は自然資源の荒廃に歯止めをかけるために、森林の個人所有を奨励しつつあるが、森林は共有地的性質が強く、他の国々では近隣住民による共同所有制度が一般的である。私有制度と共有制度のどちらが森林保全に有効なのか、両形態の所有制度の森林が並存する雲南省で、実施調査や衛星画像の解析を通じて明らかにする。 2)行政官の行政能力に関する研究:多くの新興国においてインフラ整備の加速、土地制度改革、教育改革の重要性が叫ばれているが、改革は遅々として進んでいない。原因の一つとして行政能力の不足が指摘されているが、その実態はわかっていない。そこで行政官調査を実施して、いかなる意味での行政能力が著しく不足しているかを分析し、改善の糸口を探る。今年度は、昨年度タンザニアで実施した同様の調査をウガンダとインドネシアでも行う。 3)女性の人的資本形成と社会進出に関する研究:多くの新興国ではアパレル産業などの軽工業の成長を基軸として、急速な構造変化が起きている。そうした産業ではしばしば女性が比較優位をもち、都市部で女性の雇用が大幅に増えている。こうした都市部の労働市場の大きな変化が、農村家計の教育投資そして職業選択と所得へ与える影響を、長期家計パネル調査データを用いて検証する。これについては、バングラデシュ、インド、インドネシアで比較可能なデータを収集し、国際比較研究を行う。 4)中小零細企業調査:新興国では、発展が比較的遅れている部門が成長の足を引っ張り、その国を中所得国の罠に導く恐れがあるという説がある。そうした部門の一つである中小零細企業部門で、インフラ整備や教育改革がいかなる成長促進効果を持つかを分析するために、中小企業零細調査を実施する。
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備考 |
ウェブページで本研究計画班のイベント情報、研究内容、研究成果などを公開している。
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