研究領域 | 新興国の政治と経済発展の相互作用パターンの解明 |
研究課題/領域番号 |
25101005
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研究機関 | 政策研究大学院大学 |
研究代表者 |
杉原 薫 政策研究大学院大学, 政策研究科, 特別教授 (60117950)
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研究分担者 |
久保 亨 信州大学, 人文学部, 教授 (10143520)
城山 智子 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (60281763)
太田 淳 広島大学, 文学研究科, 准教授 (50634375)
島田 竜登 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (80435106)
脇村 孝平 大阪市立大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (30230931)
田辺 明生 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (30262215)
神田 さやこ 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (00296732)
岡崎 哲二 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (90183029)
谷本 雅之 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (10197535)
小堀 聡 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (90456583)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 新興国 / 発展径路 / 経済史 / アジア / グローバルヒストリー |
研究実績の概要 |
平成27年度は、8月に京都で世界経済史会議が成功裏に開催され、メンバーのほぼ全員が報告するとともに、組織やキーセッションに関わった。また、杉原が編集に加わっていたCambridge World History (9巻)が刊行されたり、岡崎の論文がAmerican Economic Reviewに掲載されたりして、われわれの国際的プレゼンスが大きく向上した年でもあった。 そうした動きのなかで、これまで積み重ねてきた個別研究を班として総合するとともに、それを国際的な研究潮流と交差させるためのワークショップ、研究会を連続的に開催した。まず、「アジア『新興国』における国家形成の源流-経済史的接近」(4月20日)では二つのセッション「交易と国家形成」「生存基盤の確保と国家」を組織し、ほぼ全員が報告、コメントした。その後もBin Wong(中国とヨーロッパの比較), Kanchan Chandra(インド政治), 斎藤修、Leigh Shaw-Taylor(職業分類の長期国際比較)などを招いて突っ込んだ議論をするとともに、交易史についてのワークショップをLSE(9月:Tirthankar Roy, Kent Deng, A. Irigoin, Debin Ma, G. Federicoなどと交流)とGRIPS(10月)で開催した。 これらの活動から浮かび上がってきたのは、メンバーのなかで「交易史」の研究を進めているグループが、地域交易の重要性を、アジアの新興国の興隆の前提条件(つまり、アフリカやラテンアメリカには見られない現象)と見る視点を共有しつつあること、また、19世紀末以降のアジアの経済発展については工業化と資源・エネルギーの確保の観点から、同様の地域的共通性の視点の共有が進んでいることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調に進展していると判断する理由は三つある。第一に、交易、資源・エネルギー、生存基盤を結ぶ歴史的な視点が、アジアについて浮かび上がりつつある。第二に、関連する個別的な成果が国際的に出ているだけでなく、最先端の研究者との国際交流によって、議論の妥当性が頻繁に検証されている。第三に、2回のESP workshopや総括班会議での議論のなかで、新興国の興隆の歴史的な展開を、現代の新興国理解につなげる視点が出来上がりつつある。 以上の進展を支えてきたのは、経済史の範囲ではアジア交易史研究と工業化史、資源・エネルギー史研究である。しかし、「経済と政治の相互作用」という本領域研究全体の研究目標との関連で言えば、世界経済の周辺の置かれた国(現代のアフリカの多くの国を含む)から新興国(19世紀後半以降の日本を含む多くのアジア諸国はそれぞれ固有の発展径路をたどりつつ新興国の段階に達した)への構造転換がどのようにして起こるか(あるいは失敗するか)という問題設定が(必ずしも西洋史のレンズを通さずに)見えてきたことが大きい。これによって、本新学術領域研究が採用した学際的研究体制のメリットも、今後、さらに発揮されるものと考えられる。 われわれは、このような展望の下に、領域全体の成果としての4巻本の第2巻において、開発経済学のグループと共同で、「世界経済の周辺国から新興国への転換」の様相を、アジア、アフリカを中心に論じる予定である。また、若干名が第1巻、第3巻、第4巻にも執筆することによって、領域全体の構想に歴史的な視角を提供する。 また、これとは別に、「『長期の19世紀』におけるアジア域内交易と地域経済の発展」に関する論文集を刊行する計画を立て、ほぼ執筆者の構成を決めたところである。いくつかの関連する科研の成果を総合することによって、日本の研究の最新の成果を英語で発信する。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 平成28年度は、本領域研究全体の成果(4巻本)の第2巻の構想を固め、8月5日に最初の執筆者会議を開いて、目的や狙いを共有する(編者は大塚、杉原の予定)。他の巻の編集者も招いて密接な連携を図る。最終成果の見通しができるだけ早く出るように計画を立てる一方、新しい議論については、引き続き検証、修正を繰り返す。今年度中に執筆を始めつつ、執筆者間の交流に努める。 (2) 「長期の19世紀」におけるアジア域内交易と地域経済の発展についての英文論文集の構想を固め、8月6日に最初の執筆者会議を開いて、目的や狙いを共有する(編者は城山、杉原の予定)。実証的な成果はメンバーの成果の発表にまかせ、その集積による新しい歴史像の提示に主たるエネルギーを注ぐ。 (3) 本年度は、本領域研究の他の班の成果との突合せを行う機会を増やしたい。とりわけ、われわれの研究が政治、国際関係の理解にどのように影響するのか、現代の新興国の実態分析へのインパクトはどうか、など、これまで議論してきた点をより可視化したい。 (4) 昨年度からアジア経済史の若手研究者を雇用し、国際ワークショップに参加してもらったり、頻繁に報告してもらったりして、若手養成に努めてきた(諸田をGRIPSポストドクトラルフェローとして、谷口を京都大学・大阪市立大学の研究員として、それぞれ雇用)。本年度もかれらを継続して雇用し、その研究成果を班としての成果の一部に組み込めるよう、努力する。メンバーの個別研究活動も、成果の執筆により明確に関連づけていく。 (5) 地球環境問題への国際的なイニシアティヴであるフューチャー・アースの活動は、日本でも定着しつつある。日本が受け持つテーマの一つ、「アジアの経済発展の環境史的基盤」は本研究と密接に関わる。引き続きこの活動と連携して研究を進めるとともに、成果の社会還元を図る。
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