研究領域 | 生命分子システムにおける動的秩序形成と高次機能発現 |
研究課題/領域番号 |
25102002
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 啓文 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70290905)
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研究分担者 |
山本 武志 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30397583)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 電子状態理論 / 液体の積分方程式理論 / 自由エネルギー / 自己組織化系 |
研究概要 |
本課題は、申請者らが開発して来た積分方程式理論やQM/MM法、量子化学計算などを総合的に駆使しながら、幅広い空間・時間スケールの自己組織化のダイナミクスを記述できる新しい方法論の開拓を目的としている。初年度となる今年度は、A02班平岡グループにて創出された自己組織系である歯車状両親媒性分子とウィルスカプシドのモデルを主な対象として、量子化学と統計力学二つの面からアプローチについてプログラムの整備を含めた準備を中心に進めた。 (1)歯車状両親媒性分子については量子化学計算によるエネルギー評価を行った。種々の密度汎関数理論による見積もりで、結合エネルギーが汎関数等に極めて強く依存することを見いだした。この系は648原子、1800電子と非常に大きく、二倍基底でも7000基底程度の大規模計算が必要となる。そこでFMO法による計算の妥当性や、線形スケーリング電子状態理論から適当な方法について検討した。また、溶媒和自由エネルギーについてもPCMや3D-RISM法に基づいて評価を行った。この結果、従来からよく調べられて来ている典型的な小分子とは異なり、分子体積が非常に大きいために、慎重な見積もりが必須であることが分かった。 (2)ウィルスカプシドの粗視化モデルの系に関して、モンテカルロ法と液体の積分方程式理論を用いた計算を行って動径分布関数などを比較した。代表的なピーク位置などについて一致が見られる一方で、高さについては差異が認められた。また、これと並行して、ユニットの結合を分子内相関関数の変化として取り扱う新しい積分方程式理論の開発を進めている。 (3)分子性液体の三次元溶媒和構造に関する拡散方程式理論の開発に成功した。今後自己組織化のダイナミクスを調べる上で有用になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子化学計算法の検討や、新規積分方程式理論の開発などは当初の計画通り進展している。また、分子性液体の三次元溶媒和構造に関する拡散方程式理論の開発などは予定を大きく前倒しして成功している。 平岡グループによって開発された両親媒性ナノキューブの自己組織化については量子化学、統計力学による解析を行った。この系は全体として648原子・1800電子を含み、一般的な量子化学計算の対象としては相当に大きい。まず種々の密度汎関数理論を用いナノキューブの束縛エネルギーを見積もった所、得られた結果が用いた汎関数に対し予想以上に大きな依存性を示す事が明らかになった。BSSEが計算手法に強く依存することなど複合的な要因が考えられるが、実験と定量的な比較を可能にするために、より精度の高い計算を進めている。また、従来の電子状態計算プログラムでは計算時間が系の3乗に比例して増大するため、原子数が数百を超えるオーダーになると計算量が爆発的に増加する。これを避けるため、線形スケーリングの新しい電子状態プログラムを用いて計算を加速することを現在試みている。 次に溶液中の束縛自由ネルギーを求めるため、溶媒和自由エネルギーを3D-RISM法によって見積もった。その結果、ナノキューブ生成に付随して溶媒和自由エネルギーは>200 kcal/molの変化を示し、モノマーの分子間相互作用をほぼ打ち消す方向に働いている事が示唆された。一方、3D-RISM法の結果も使用するクロージャーおよびブリッジ関数の有無によって予想以上に大きい変化を示す事が分かり、その原因と対処法を現在検討中である。 このように大きな系の自由エネルギー変化を量子化学・統計力学的手法で求めることは現在までほとんど行われておらず、これらの問題点を克服することは理論による定量的な解釈と予測を行う上で重要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ予定通りの進捗状況であり、今後も当初の予定に基づいて課題を遂行する予定である。より具体的には、大きく分けて以下の研究を行う: (1)線形スケーリングの電子状態理論と3D-RISM理論あるいはエネルギー表示の理論を組み合わせることで、数百原子以上を含む溶質の構造変化やユニット入れ替えに付随する自由エネルギー変化を求めるためのプログラムを開発する。 (2)自己組織化と秩序形成の動的な側面を明らかにするために、量子化学計算に基づいた粗視化モデルの構築を行い、後者の自由エネルギーマップや中間構造の間の遷移を分子動力学法やモンテカルロ法で調べる。 (3)溶媒・イオン環境の変化やユニットの内部自由度の変化によって誘起されるユニット複合体の構造変化に関する研究を行う。また、ユニットに柔らかい自由度を導入することによって自己組織化過程や系全体の構造・揺らぎにどのような影響が出るか、またそれを機能に結びつけることが出来るかについて適切な分子モデルを構築することで調べる。 (4)ウィルスカプシドや歯車状両親媒性分子の粗視化モデルの系について、統計力学理論に基づくアプローチを引き続き検討する。
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