研究領域 | 生命分子システムにおける動的秩序形成と高次機能発現 |
研究課題/領域番号 |
25102003
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
上久保 裕生 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 教授 (20311128)
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研究分担者 |
片岡 幹雄 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, サイエンスコーディネーター (30150254)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 蛋白質 / 動的秩序 / X線溶液散乱 / マルチドメイン蛋白質 |
研究実績の概要 |
本申請研究では,多成分からなる蛋白質分子複合系の構造及び相互作用評価が可能な計測・解析方法構築を目的として研究を進めている.形状によって分子種の区別が可能なX線溶液散乱法を用い,構成成分の比率を無数に変化させた溶液からのX線散乱曲線を収集し,多変量解析による再構成技術によって本計測・解析手法の実現を目指している.その実現に向け,平成25年度から27年度にかけ,要素技術の一つであるμ流路型自動サンプリングシステムの開発を進め,研究室系X線発生装置,並びに,放射光での試験を行ってきた.前者については平成25から26年の期間内に,期待していた性能を示すμ流路デバイスの開発に成功し,後者については平成27年度に実在する多成分混合系(GGA蛋白質及びUb系)をモデル系とした実証試験を行い良好な結果が得られた. 本年度(平成27年度)は,反応過程で多種多様な複合体(オリゴマー)が形成されることが推測されていた光情報伝達系(PYP/PBP系)を研究対象として,光強度に依存したオリゴマー形成過程の構造・相互作用解析を行うと同時に,成分数が増えた際の本計測・解析技術の適用可能性について検討した.その結果,オリゴマー形成のように,類似した散乱曲線を示す対象では,単独での成分分離が困難であることがわかった.しかしながら,Native-MSのように定量性には劣るものの,原理的に質量によって対象を区別することが可能な測定手法と相互利用することによって,10成分を上回る反応であっても反応モデルの構築とその後の解析が可能であることが示せた.さらに,この結果を基に,PYP/PBP系においては,PYPそれ自身は光に対してOn/Offの応答しかできない分子であるにもかかわらず,システム全体としては,光強度に応じたオリゴマー種の変動によって,環境光強度に依存した生理応答を実現している可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らのグループでは,紅色光合成細菌由来の水溶性光センサー蛋白質(PYP)について精力的に研究を行ってきた.長年,その相互作用蛋白質は同定されていなかったが,本研究期間内に,光を吸収し活性型になったPYPに特異的に結合する蛋白質(PBP)の同定に成功した.予備的実験から,活性型PYPとPBPの存在比率に応じて,異なるサイズの多種多様な複合体が形成されることが示唆された.しかしながら,混合比に応じて数多くの種類の複合体が存在するために,適当な測定手法がなく実際の反応機構や複合体の構造は未同定のままであった. そこで本年度は,これまでに開発してきたμ流路型自動サンプリングシステムを用い活性型PYPとPYPの比率を逐次変化させ,その都度,X線溶液散乱測定を行うことで反応機構の同定を試みた(連続滴定X線溶液散乱測定).期待した通り,得られた冗長に測定した散乱曲線に対して多変量解析を適用することによって,成分比に依存して独立に存在量が変化する散乱曲線を分離することに成功した.その一方で,類似した散乱曲線を示す成分を分離することが困難であったため,反応モデルの構築に問題が残った.本新学術領域内の内山らのグループの協力を得て,Native-MS測定を行うことで,系中に存在するすべての成分を同定することができた.Native-MSと連続滴定X線溶液散乱測定の結果を相補的に解釈することによって,オリゴマーの形成反応モデルを得るに至り,反応モデルとX線散乱曲線の多変量解析の結果から,主要なオリゴマーの構造と反応を規定する解離定数を解析することができた.以上の研究の過程で,連続滴定X線溶液散乱測定で得られたデータの基本的な解析方法の構築にめどが立ち,さらに,他の計測手法を相互利用することによって複雑な分子複合系に対しても適用可能であることを示すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,存在比率に応じて多種多様な複合体が形成される光情報伝達系にμ流路型自動サンプリングシステムを用いた連続滴定X線溶液散乱測定を適用した.この研究を通じ,一連の測定手順を標準化することができた.さらに,そのデータ解析の過程で適用限界を評価することができた.本対象のように,オリゴマー形成に伴って分子が伸長していくような反応である場合,散乱強度変化の縮退が生じ,X線散乱曲線のみからすべての成分種を同定することが困難となる.しかしながら,この問題も,Native-MS等の超分子を非破壊的に分析することが可能な測定手法と組み合わせることで対応可能であることが示せた.本申請研究の目的の一つに,放射光施設での常時運用を掲げている.今年度の実験を通じ一定のめどが立った.この装置を使って実験をしてきた博士後期課程学生が博士研究員として高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設に勤務することになっており,今後さらに連携を深めていく.
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