研究領域 | 生命分子システムにおける動的秩序形成と高次機能発現 |
研究課題/領域番号 |
25102007
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 宗太 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 准教授 (40401129)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 金属錯体 / パラジウム / 秩序化 |
研究概要 |
本研究では,多数の構成成分が弱い相互作用を通じて自己組織化して得られる多成分錯体を基盤として,その秩序化の過程における動的な側面に焦点をあてることをめざす.これまでの研究において,構成成分の構造を少しだけ変えることで,最終的に得られる生成物の構造が大きく切り替わる「秩序の相転位」とも呼ぶべき現象を発見してきている.この基礎的な知見をもとに,秩序化する機構を自由自在に,かつ動的な要素を取り入れて操ることができれば,生体系にも匹敵する複雑な現象を人工的に模倣した新しい化合物合成の方法開発につながるものと考えている.今回,この秩序化の途中段階で,どのような構造の化合物が生成しているのか,各種分光法や質量分析,また理論化学的なアプローチも含めて最新鋭の手法を適用して明らかにした.一般に,自己組織化した集合体は,同種の構成成分が何個も組みこまれた構造をしているために,中間体や生成物の物性が似通っており,これらを分離したり,また混合物のまま区別して検出したりすることが難しく,構造決定できないことが多い.そこで,出発物質の構造を精査して,中間体の質量分析を良好に行えるモデルとなる反応系を確立し,中間体の分子量を決定した.さらに,核磁気共鳴分光を用いて分子の拡散係数を見積り,分光学的にも中間体の構造を確認した.この情報をもとに,経時変化によって動的に中間体構造が変遷していく様相を捉えることができた.このようにして決定した秩序化の機構は,分子動力学法を応用した理論計算による予測とよく一致することもわかった.まだ予備的な知見ではあるが,中間体の構造は,無限といえるほど候補となる構造が考えられるが,実際には,ごく限られた数の対称性が高いものだけが生成することがわかってきた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動的な秩序化を自在に操るためには,反応の機構そのものを理解する必要があり,手がかりとなる中間体構造の決定が極めて重要である.これまでの検討において,従来は反応系が複雑すぎて解析できなかった秩序化のシステムに対して,分子量を決定できる質量分析と,分光学的手法の中でも,核磁気共鳴を駆使して,最新鋭の装置と解析手法によって分子の拡散速度を決定できるDOSYスペクトル測定とを併用することで,反応の経時変化を明らかにすることができてきた.これらを達成するためには,各種測定に適合するモデルとなる系を選ぶ必要があり,おおむね順調にこのモデル系を確立することができた.また,時間とともに変化してしまう反応系を迅速かつ的確に測定できる手法を確立することができた.これにより,時間と共に変化していく多成分錯体の秩序化のシステムを詳細に理解できる基礎を築くことができ,次年度のより詳細な検討にむけた準備が十分に整ったと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後,樹立した反応系に対して,温度や濃度などの条件を正確に制御しながら中間体の解析を進め,詳細な反応の機構を解明する.さらに,質量分析や核磁気共鳴分光法で中間体を検出できることがわかってきたので,これらの手法における,一段と進んだ分析法の適用を検討し,分子の三次元構造の決定や,より精確で時間分解能が高いデータの取得をめざす.また,動的な秩序化の観点をもって分子設計を行うことで,生体分子のシステムを模倣した新しい,柔軟な動きを伴う分子構築を行う.領域内の他研究者との積極的な連携にも留意して,特定の分野にとどまらず,幅広いアプローチから新しい分子システムを構築することをめざす.
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