計画研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
近年、微細加工技術が発展したおかげで、我々は、量子的な電気伝導が支配的であるような極小の固体量子素子を作ることができるようになった。このような固体量子素子は、平衡状態から非平衡状態までを連続的に制御できるため、非平衡量子系を定量的に取り扱える理想的な舞台の一つである。我々は、固体量子素子を舞台として、非平衡ダイナミクスを定量的に取り扱う方法論の創出を目指している。本年度の成果は以下の通りである。(1)高精度電流ゆらぎ測定手法の開発:本研究の中核となるのは、高精度の電流ゆらぎ測定である。本年度、我々は更なる技術開発に取り組み、これまでに開発してきた低温動作可能な増幅器の性能を10倍程度、向上させることに成功した。(2)トポロジカル絶縁体母物質における普遍的伝導度ゆらぎ:近年、トポロジカル絶縁体と呼ばれる物質群が大きな注目を集めている。代表者は、典型的なトポロジカル絶縁体の母物質であるBi2Se3について、弱局在や普遍的伝導度ゆらぎを研究し、量子コヒーレンスに関する基本的なパラメータを得た。(3)スピンショット雑音の観測:スピン流にともなう「スピンショット雑音」と呼ぶことのできる現象が期待される。このことを実験的に検証した。(4)量子系における幾何学的ポンプとエントロピー生成の理論:量子系を外部から周期的に操作した時に、ベリー位相に類似の効果で非平衡カレントが発生することが知られている。沙川らはこれを非平衡定常熱力学に応用した。(5)量子情報を活用した熱機関の理論:沙川らは、量子ディスコートと呼ばれる量子情報量を使って、仕事を取り出すことができる熱機関の理論的提案を行った。(6)絶縁体での熱輸送に見る近藤効果:近年、微小系を流れる熱を操作する研究が盛んになってきている。齊藤らは、分子ワイヤーを介した熱輸送を意識して、近藤効果に相当する現象を研究した。
1: 当初の計画以上に進展している
実験的な技術の向上や、スピンショット雑音の観測など、実験面での大きな進展が見られた。また、理論上も、本研究課題の主題に関して、顕著な進展があった。
本研究課題が昨年度順調に進展したことから、今後も、当初計画通り、遂行する。計画遂行上の問題点は無い。今後は、電荷とスピンに関するゆらぎや、絶縁体での熱輸送、量子情報を活用した熱機関の理論の構築などを行う。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件) 学会発表 (41件) (うち招待講演 14件) 備考 (4件)
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