研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
25103003
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小林 研介 大阪大学, 理学研究科, 教授 (10302803)
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研究分担者 |
沙川 貴大 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (60610805)
齊藤 圭司 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (90312983)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 非平衡雑音 / ゆらぎ / 量子情報 / 熱輸送 / 量子多体系 |
研究実績の概要 |
微細加工技術によって作製される極小の固体素子は、平衡状態から非平衡状態までを連続的に制御できるため、非平衡量子系を定量的に取り扱える理想的な舞台である。我々の班では、このような固体素子を主たる舞台として、非平衡ダイナミクスを取り扱う方法論の創出を目指している。代表者・小林は、当該年度、近藤効果の基底状態の対称性の制御に関する理解を中心として進めた。カーボンナノチューブ量子ドットではスピン自由度と軌道縮退に起因するSU(4)近藤効果が、局在電子数1,2,3の広い範囲で起こる。磁場中での振る舞いを詳細に調べた結果、SU(4)近藤効果が連続的にSU(2)近藤効果へとクロスオーバーしていく様子を解明できた。このような量子液体の対称性制御に関する定量的な理解は、これまでに得られたことがなく、学術的に優れた成果である。分担者・沙川らは、情報流によって駆動される熱機関において、線形非平衡熱力学が情報流を含む形で定式化でき、さらにオンサーガ相反定理が「情報流」「情報アフィニティ」に対しても成立することを明らかにした。とくに、情報を含むオンサーガ相反定理が成り立つことを明らかにした。さらに、得られたオンサーガ相反定理を応用して、パワー(単位時間あたりの仕事率)が最大になるときの情報熱力学効率に上限があることを明らかにした。分担者・齊藤は、エントロピー生成に関する時間方向の普遍性を追求した。エントロピー生成は従来、測定時間を固定して分布関数を考える研究が主体であったが、目標とする固定したエントロピー生成を設定し、その値を得るまでの時間の待ち時間を考え、時間方向の普遍性を探ることに成功した。また、仕事率と熱効率の間に成立する普遍的なトレードオフ関係式を導出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
量子液体の非平衡ダイナミクスの解明がさらに進んだことは、学術的に極めて優れた成果であり、当初の計画以上のものである。特に、ゼロ次元におけるFermi流体のランダウパラメータであるウィルソン比、および近藤状態の共鳴幅と共鳴振動数への多体補正を決定する準粒子励起のくりこみ定数を、非平衡輸送係数から系統的に決定し、量子ドットで実現された強相関電子系の普遍的振る舞いを明確にしたことの意義は大きい。さらにSU(4)対称性を破る摂動として重要な外部磁場の効果を調べた。カーボンナノチューブは、チューブの軸方向を向いた軌道角運動量を持ち、そのg因子はナノチューブ半径に依存するが、電子スピンのg因子より大きい傾向がある。測定に用いられた量子ドッドでは軸方向の軌道ゼーマン効果とスピンゼーマン効果がほぼ同じ大きさを持ち、磁場下においてもスピンを含めた4個の1粒子状態中に2重縮退が残り、磁場の増大とともにSU(4)近藤状態からSU(2)近藤状態へのクロスオーバーが観測されたものと解釈できることを示した。このような量子液体の対称性制御に関する定量的な理解は、これまでに得られたことがなく、当初の計画以上の成果である。また、分担者・沙川らの研究成果は古典系に関するものであるが、線形非平衡熱力学において情報と熱力学量を対等に扱うことができることを示す基本的な結果であり、量子系の情報熱機関を研究する上でも重要な役割を果たすと考えられる。分担者・齊藤も、順調な進展を見ている。これまで、量子系における熱の流入流出が関与する熱力学的な性質を追求して来た。量子系特有の近藤効果を伴う熱伝導、熱電効果における仕事率と熱効率の関係。また古典系においても仕事率と熱効率の間に成立する普遍的な関係式を導出するに至っている。以上のことから、当初の計画以上の成果を得ていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
現時点において、当初の予定以上に極めて順調に、研究活動を継続していると考えているため、この流れを維持し、ゆらぎの研究の深化を図っていく。代表者は、電流ゆらぎ測定手法を、非平衡系量子系においてスピンがあらわに顔を出すような伝導(アンドレーフ反射、近藤効果)などに適用し、大きな成果を得ている。特に、現在、超伝導状態におけるゆらぎについて調査し、理論との比較を行っている。理論面では、これまでの結果を踏まえて、量子性が本質的な役割を果たす輸送過程において、量子情報のダイナミクスについての研究を行う。そのさい、古典系でこれまでに得られた知見を活用する。2016年度までに得ている研究を総合的にまとめあげ、当研究課題の総まとめを行う。特に量子熱機関における熱効率や仕事率の間に成立する普遍則の探求を行う。低次元系の量子熱伝導現象における、界面成長のダイナミクスとの類似性においても、総合的な研究を行う。
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備考 |
受賞:齊藤 圭司:第20回(2016年度)久保亮五記念賞受賞 (井上科学財団)。 新聞報道:2016/11/08日刊工業新聞 朝刊29面「熱エンジンの効率と出力向上「両立せず」証明」齊藤圭司、2016/11/07日経産業新聞 朝刊8面「数式でエンジンを評価 慶大、省エネ開発後押し」齊藤圭司。 アウトリーチ活動、計4件。
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