研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
25103009
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
今井 正幸 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60251485)
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研究分担者 |
佐久間 由香 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40630801)
菅原 正 神奈川大学, 理学部, 教授 (50124219)
豊田 太郎 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (80422377)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 人工細胞 / ベシクル / 情報分子 / 自己駆動 |
研究実績の概要 |
本研究グループは、生命の最も基本的な性質である、ベシクルの自己生産・代謝・遺伝情報分子との連携・自己駆動、の4つの機能を備えた人工細胞の創成を進めようとするものである。本年度の研究実績は以下の通りである。 ベシクルの自己生産:2成分ベシクルが示す変形・分裂・回帰過程を3次元共焦点顕微鏡を用いて定量化し、膜弾性モデルにより解析した結果、ベシクル膜変形に伴って膜分子の分布が変化することが、このような自己生産が繰り返し行われるための鍵になっていることが判明した。 代謝:ベシクル膜が外部から分子を取り込んで成長するためには、膜表面での分子を化学的に変調させることが重要である。そのための、最も単純なモデルとして表面電位を用いて化学平衡を変調することによりベシクルの成長が加速されることが明らかとなった。 遺伝情報分子との連携:ベシクル型人工細胞に内封する二本鎖DNAの鎖長として、374 , 1164, 3200 bp の三種を選び、それぞれ内封したDNAを複製させた後、一定時間後に膜分子前駆体を添加し、それぞれ20~30試料につき、そこで誘発されるベシクルの形態変化を、共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いて精査した。その結果、形態変化の頻度、および分裂様式などに、明確なDNA鎖長依存性があることが示された。 自己駆動現象:リン脂質で作製した多重膜ジャイアントベシクルにオレイン酸ナトリウム水溶液を穏やかに添加することで,球形からひも状へ形態変化したジャイアントベシクルが一方向的に駆動したり回転運動したりすることを見出した。同様な現象はデシルアミンの水中で作製したリオトロピック液晶型ひも状分子凝集体でも観察された。これら駆動現象は,形状の曲率に依存した分子の溶解速度の差が,異方的な分子拡散場を凝集体周囲にうみだしたことによる拡散泳動に因るものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画研究では、人工細胞の創成に向けて合成化学とソフトマター物理学の研究者が連携して挑むものである。人工細胞の根幹をなす基本的要素(自己生産・代謝・遺伝情報分子との連携・自己駆動)に関しては、おおよそ再現に成功し、その物理的な機構も明らかになってきた。また自己駆動に関しては、ワームに似て、全体をくねらせながら前進・回転・反転運動する想定外の新しい駆動現象の発見もあった。今後は、各要素の連携に焦点をあて、より生命らしい人工細胞系の構築に向かって研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
本研究グループは、生命の最も基本的な性質である、ベシクルの自己生産・代謝・遺伝情報分子との連携・自己駆動、の4つの機能を備えた人工細胞の創成を進めようとするものである。今後の研究の推進方策は以下の通りである。 ベシクルの自己生産:これまで解析を進めてきたのは、ベシクルを構成する分子数が一定のものであった。これをベースに外部から分子を取り込んで成長・分裂するベシクル(菅原グループの開発したベシクル)の解析を進め、分子供給系と連動した自己生産のベシクルの特質を分子供給系を持たないものと比較することにより明確にする。 代謝:膜表面での化学的な変調によりベシクル膜への分子の取り込みを、様々な分子を触媒的に媒介させることにより加速・制御できるか調べる。できればこのように成長するベシクルが分裂することが可能か、3次元解析も含めて検討を進める。 遺伝情報分子との連携:異なるDNAを内封したベシクル型人工細胞のベシクル膜を、それぞれ異なる蛍光プローブで標識する。内封DNA増幅後に膜分子前駆体を添加し、生産される第二世代のベシクルの増殖効率をフローサイトメトリーで集団計測することで、異なるDNAを保有するベシクル間の自己増殖能を競わせる。 自己駆動:界面活性剤添加時に凝集体へ補充できることを目指した人工リン脂質を新たに合成したことから,これを用いて一連の駆動現象を長時間継続させることで変形-駆動がカップリングする機構の本質へ迫る。
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