研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
25103010
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
好村 滋行 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (90234715)
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研究分担者 |
野口 博司 東京大学, 物性研究所, 准教授 (00514564)
芝 隼人 東北大学, 金属材料研究所, 特任助教 (20549563)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 生体膜 / 非平衡 / 相分離 / 化学反応 / ずり流動 / ラフト / マイクロレオロジー / ガラス |
研究実績の概要 |
生体膜の外部環境における非熱的なゆらぎによって誘起される膜の非平衡ゆらぎついて考察した。具体的には、ランダムな速度を発生するアクティブな壁と相互作用する生体膜のブラウン運動の解析を行った。壁がランダムな速度を発生する場合、平均二乗変位が時間に比例する時間領域が存在することがわかった。さらにアクティブな壁が特徴的な時間スケールを有する場合、平均二乗変位が時間に比例する領域がさらに拡大することもわかった。 圧縮性のある脂質二重膜の緩和ダイナミクスの詳細な解析を行い、特にベシクル内外の粘性率の非対称性の効果を調べた。特にベシクルの内側の粘性率が外側と比べて大きくなると、曲げモードとスリップモードのクロスオーバーが短波長側に大きくシフトすることがわかった。 バナナ状タンパク質の吸着による生体膜の変形をメッシュレス膜模型のシミュレーションを用いて研究した。タンパク質の弾性を上げたり、膜端の線張力を下げたりすると、タンパク質による膜変形が膜の破裂を起こし、ベシクルのトポロジー変化を起こすことを明らかにした。 また、古典分子動力学計算における局所応力の計算において、三体以上の場合の新しい力の分解法を提案し多体力について局所応力の不定性があることを示した。 大規模分子動力学計算を用いて、2次元と3次元のガラス動力学が根本的に異なることを示した。2次元では結晶におけるMermin-Wagnerの定理と同じ原理により、巨大な長波長音波振動が発生し、対数的に発散する熱振動振幅によって特徴づけられる。振動の影響を受けない協調再配置の動力学を特徴付ける関数の導入により、2次元系においても、ガラス的緩和固有の動力学を抽出することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究成果のうち、非平衡環境下における生体膜のゆらぎ、脂質二重膜ベシクルの緩和ダイナミクス、粘弾性体中のアクティブな力双極子による異常拡散、バナナ状タンパク質によるベシクル破裂、核膜形状の構築、局所応力の計算のための三体力の分解法、ガラスの長波長音波振動については、すでに論文として出版している。したがって、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の平成29年度は、研究成果全体のまとめを行う。 その中でも特に、粘弾性体中のマイクロマシンの遊泳に関する研究を完成させる。本年度は粘弾性体のマイクロスケールの構造を反映できる二流体モデルを用いて、その中の三つ玉スイマーの挙動を調べることを目的とする。特にスイマーのサイズとメッシュサイズの関係が、遊泳速度にどのように影響するか計算する。二流体モデルは弾性体ネットワークの方程式と、粘性流体が摩擦を通して結合するモデルになっている。その結果、弾性体ネットワークのメッシュサイズに相当する長さスケールが現れる。三つ玉スイマーは球の大きさ、アームの長さ、アームの振幅など複数の長さスケールを持っている。そのため、それぞれメッシュサイズとの関係を考えて、遊泳速度を解析的および数値的に求める。 また、平成29年度には、生体膜上でのタンパク質の吸着や化学反応による生体膜の形態変化についての研究を引き続き進める。生体膜の外力に対する応答を理解する上で重要な膜内における多体力のストレスのより良い分解法の構築を試みる。 さらに、表面帯電を伴う電解質添加剤としての特に生体界面と材料系に共通してみられる高分子ブラシ間のダイナミクスを理解するためのモデル開発、および電解質系一般に対する分子動力学計算手法の開発の双方を行う。電解質溶液系についてはイオン液体の動力学を考察するのに最近再注目されている分極モデリングの開発を行い、遅いダイナミクスの定量予言手法の改良を目指した研究を行う。
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