研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
25104002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北尾 彰朗 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 准教授 (30252422)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 柔らかさ / ダイナミクス / 巨大分子 / 分子集合体 / 機能 |
研究実績の概要 |
本研究では、柔らかさの特徴を織り込んだ理論開発と柔らかさと機能の関係解明を進めている。平成28年度は、カスケード並列選択型分子動力学法による蛋白質複合体解離シミュレーション、カスケード並列選択型分子動力学法によるべん毛繊維の構造変化、(6-4)光修復酵素のヒスチジン残基のプロトネーション、(6-4)光修復酵素の酵素反応メカニズムなどの研究に大きな進展があった。 カスケード並列選択型分子動力学法Parallel Cascade Selection Molecular Dynamics (PaCS-MD)を用いた研究では、蛋白質複合体を解離させ、マルコフ状態モデルで解析して解離自由エネルギーや結合速度定数kon、解離速度定数koffを計算する手法を開発した。現在、複数の論文を執筆している。 カスケード並列選択型分子動力学法による細菌べん毛繊維の構造変化では、PaCS-MDを用いて320万原子からなる細菌べん毛繊維を左巻き超らせんから右巻き超らせんに構造変化させるシミュレーションを行い、マルコフ状態モデルで解析して自由エネルギー面を明らかにした。 また、(6-4)損傷DNA光修復酵素の触媒メカニズムを明らかにするため、活性部位にあるヒスチジン残基が取りうるすべてのプロトネーション状態の組み合わせを作ってそれぞれの立体構造と安定性を分子動力学シミュレーションMolecular Dynamics (MD)を用いて調べ、最も可能性の高いプロトネーション状態の組み合わせを明らかにした。 更に、神取グループと協力して、(6-4)損傷DNA光修復酵素の触媒メカニズムをMDおよびQM/MMを用いて研究し、そのメカニズムを明らかにした。現在、論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
目的の1つである柔らかさの特徴を織り込んだ理論開発と柔らかさと機能の関係解明のために、通常のMD計算では再現することが難しい解離過程のシミュレーションが、PaCS-MDで容易に実現できたことは大きな成果だと考えている。 理論と実験の比較に基づく理論計算の改良と柔らかさの統合的な理解では、この年度に開始したDNAとRNAのヘアピン構造のフォールディング・アンフォールディングを対象としたREMD計算が順調に進んだ。 柔らかさを考慮した立体構造・分子機能の予測と設計では、これまで反応メカニズムが十分明らかになっていなかった(6-4)光産物の修復メカニズムについても研究が進み、これまで実験と理論計算が矛盾していて理由を明らかにし、これを解決したので、実験と理論による統合的な反応メカニズムの解明ができた。 以上を総合して、当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)柔らかさの特徴を織り込んだ理論開発と柔らかさと機能の関係解明のために、これまで同様にシミュレーション法の応用・改良を進める。初年度より継続して進めてきたPaCS-MD法の改良では、複数の例で解離自由エネルギーや結合速度定数kon、解離速度定数koffが実験値とどの程度一致するか、精度の確認を行う。 (2)理論と実験の比較に基づく理論計算の改良と柔らかさの統合的な理解では、下記の研究を中心におこなう。これまで行ってきたDNAとRNAのヘアピン構造のフォールディング・アンフォールディングを対象としたREMD計算、気相中のペプチドのスペクトル計算の取りまとめをおこなう。 (3)柔らかさを考慮した立体構造・分子機能の予測と設計では、DNA光修復酵素を主なターゲットとした研究を継続し、既に明らかにしたT(6-4)T光産物に加え、T(6-4)C光産物の修復メカニズムを分子動力学計算と量子化学計算によって明らかにする。
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