計画研究
平成 28 年度は、主に以下の研究を行った。1. 好熱菌由来微生物型ロドプシン光受容タンパク質 TR の熱安定性の解析、2. 視物質ロドプシン(Rh)の光活性化機構の解明。3. 液体ピレンの構造と光励起状態過程の解析。以下に概要を述べる。TR の熱安定性の解析:本研究では、村田らにより決定された TR の X 線結晶構造に基づき、MD シミュレーションによる熱安定性の解析を行った。細胞膜中の TR のシミュレーション系に対し、低温(300 K)及び高温(348 K)でそれぞれ 1 マイクロ秒の MD トラジェクトリ計算を行った。その結果、高温のシミュレーションにおいて、FG ループに存在する LPGG モチーフに、疎水結合が増強する顕著な構造変化が観測された。更に、その LPGG モチーフの構造変化にトリガーされて、膜貫通ヘリックスのスライドが引き起こされ、新たな疎水性相互作用や水素結合の生成が観測された。Rh の光活性化機構の解明:本研究では、QM/MM 自由エネルギー構造最適化法を用いて、光活性化中間状態を同定・解析することにより、光活性化の分子機構を明らかにした。QM/MM RWFE-SCF 法を用いて、光中間状態である BSI 及び Lumi 状態の自由エネルギー最適化構造モデルを決定した。更に、光吸収エネルギー及び基準振動解析を行い、構造モデルを用いて分光実験観測結果を良く説明することに成功した。液体ピレンの構造と光励起状態過程の解析:液体ピレンの分子力場を構築し、MD シミュレーションを行った。得られた液体構造サンプルに対して、ピレン分子間の励起子相互作用を計算することにより、液体ピレンの蛍光状態の解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
TR の熱安定性の解析に関しては、温度の上昇に反応する顕著な構造変化を引き起こすモチーフの同定に成功した。このモチーフは他の微生物型ロドプシンには無いものであり、他の微生物型ロドプシンに導入することにより、熱耐性が向上することが期待される。Rh の光活性化機構に対しては、G タンパク質の高効率の活性化機構を明らかにすることに成功した。特に、Lumi 状態においては、シッフ塩基と対イオンの間の相互作用が弱まり、次に続く Meta-I 状態の前駆体が出来ていることを明らかにした。本研究により、他の微生物型ロドプシンの光活性化過程の解析への適用も可能となった。また、液体ピレンの研究では、顕著な性質を有する液体ピレンの蛍光状態を、液体構造と関連付けることに成功した。
TR の熱安定性の解析に関しては、見出された高温耐性を与えるモチーフを、好熱タンパク質ではない類縁の微生物型ロドプシンに導入したモデルを構築し、高温耐性のメカニズムを検証する。また、Rh の光活性化機構の解析の研究方法に基づき、チャネルロドプシン等の他のイオン輸送微生物型ロドプシンに光中間体の解析を行うことにより、イオン輸送の分子機構を明らかにする。また、本年度は、上記の研究成果以外にも、チャネルロドプシンの光活性化過程、シトクロム c の酸化還元過程、光合成系 II の光酸化機構、Mn 含有ポリフィセン再構成ポリフィセンの触媒活性、及び両親媒性アントラセン含有機能性自己組織化分子に関する研究が大きく進捗しており、今後はそれらの研究も推進する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 5件)
Journal of Physical Chemistry B
巻: 121 ページ: 3842-3852
10.1021/acs.jpcb.6b13050
Journal of Biological Chemistry
巻: 291 ページ: 12223-12232
10.1074/jbc.M116.719815