研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
25104005
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田原 太平 国立研究開発法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 主任研究員 (60217164)
|
研究分担者 |
竹内 佐年 国立研究開発法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 専任研究員 (50280582)
石井 邦彦 国立研究開発法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 専任研究員 (80391853)
山口 祥一 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60250239)
須藤 雄気 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (10452202)
|
研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
|
キーワード | 複雑分子系 / 先端分光計測 / 超高速ダイナミクス / 界面 / 生体分子 |
研究実績の概要 |
本研究では世界最高の分光計測を開発・駆使して多自由度複雑分子系のダイナミクスと機能発現の機構を解明する。今年度は以下の成果を得た。 超高速分光を用いた研究では共同研究を強力に推進し、新しい機能性分子の光反応初期過程の研究を行った。特にA03班の吉沢グループが開発した新規な芳香族ミセルの内部の局所的な環境をフェムト~ピコ秒時間分解蛍光分光により研究した。このミセル中に蛍光プローブ分子を包摂させ、その蛍光ダイナミクスを観測した結果、包摂されたプローブ分子の光励起に対してミセルは1ピコ秒以内の速い応答を示すことが分かった。また回転緩和時間の測定からこのミセルが柔軟にサイズを変え分子を包摂する特性を有することが明らかになった。 界面選択的非線形分光を用いた研究では空気/水界面における溶媒和電子の実時間観測に成功した。これまでバルク溶液中の溶媒和電子については詳細に調べられてきたが、界面における溶媒和電子については分かっていなかった。そこで紫外光励起時間分解ヘテロダイン検出振動和周波分光法を開発し、これを水表面の溶媒和電子の観測に適用した。紫外光照射で水表面付近に電子を発生させると、電子を水和している水分子のOH伸縮に帰属できる信号が観測された。このバンドの解析から、水表面の電子は部分的に溶媒和された構造をとり、約100ピコ秒内に水中に拡散していくことがわかった。 単分子分光を用いた研究では、独自に開発した二次元蛍光寿命相関分光法(2D-FLCS)を用いてDNAとRNAのヘアピン構造の形成・解離機構を調べた。温度制御が可能な二色検出2D-FLCS測定装置を製作し、同等の配列をもつヘアピンRNA/DNAの構造形成速度・解離速度を測定したところ、後者の温度依存性は類似していたのに対し、前者はDNAではほとんど温度変化が見られない一方、RNAでは大きく変化することが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで適当な実験方法論が無かったために全く研究されていなかった液体界面の反応ダイナミクスを研究できる、紫外励起時間分解ヘテロダイン検出振動和周波分光法を開発し、これによって最も基本的な水和電子の水表面での存在形態と動的挙動を明らかにすることができた。この成果をJ. Am. Chem. Soc.というインパクトの高い雑誌に発表できただけでなく、編集者から受理を知らせるメールで「この論文は今後長年にわたって多く引用されるだろう」という絶賛を受けた。超高速分光や単分子分光の研究においても全く新しい知見が得られており、これは当初の計画以上の進展であると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
研究は大変順調に進展しているので、このままこれを強力に推進する。特に平成29年度は本新学術領域研究「柔らかな分子系」の最終年度なので、現在領域内の研究グループと進んでいる多くの共同研究をまとめ、成果を論文の形に結実させていく。具体的には、超高速分光の研究ではA03班の生体分子や超分子の研究者との、界面選択的非線形分光の研究ではA01班の界面理論の研究者との、単分子分光の研究においてはA01班の生体分子の分子動力学分子シミュレーションの研究者やA02班で我々とは異なる計測法を用いて生体高分子の研究をおこなっている研究者との共同研究で大変興味深いデータが出ているのでこれらをまとめる。
|