研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
25104006
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水谷 泰久 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60270469)
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研究分担者 |
水野 操 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10464257)
石川 春人 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (40551338)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | ラマン分光学 / アロステリー / 時間分解分光法 |
研究実績の概要 |
(1)ヘムタンパク質の構造変化と機能発現機構の研究 FixLはマメ科植物と共生する根粒菌に含まれる酸素センサータンパク質で、細胞内酸素濃度を感知する。低酸素下ではリン酸化酵素活性を持ち、高酸素下では活性を抑制することで窒素固定系遺伝子の発現調節を担う。本研究では、紫外共鳴ラマン分光法による全長FixLの構造変化の観測に加え、リン酸化活性測定を行うことで、活性制御に重要な残基の構造変化を調べた。その結果、酸素の結合に伴って起きるTyr201の水素結合強度変化が活性制御に重要であることを明らかにした。 (2)光受容タンパク質の構造変化と機能発現機構の研究 グロイオバクターロドプシン(GR)は、光エネルギーを利用してプロトンを細胞内から細胞外へと輸送する。本研究では、共鳴ラマン分光法を用いて、ナノ秒からミリ秒領域におけるレチナール発色団の構造および周辺残基との相互作用を調べた。その結果、過渡吸収分光法による研究では1種類とされていたL中間体に2種類があること、プロトン移動に先立ってレチナール発色団とカウンターイオンとの間の水素結合が強くなりプロトン移動のエネルギー障壁を低くする構造変化が起きることを明らかにした。 (3)タンパク質内エネルギーフローに関する研究 ヘムを分子ヒーター、トリプトファン残基をエネルギープローブとして用い、タンパク質内のエネルギーフローを計測した。本研究では、ミオグロビン中のヘム周辺の異なる位置にトリプトファン残基を導入した変異体を用い、タンパク質内エネルギーフローの空間異方性について調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、タンパク質分子の柔らかさと機能発現との相関を調べる研究が進んでいる。新規に導入したレーザーを用い、幅広い波長領域で時間分解共鳴ラマンスペクトルを測定できるようになった。これを用いて、S/N比の高いスペクトルデータが得られている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)光駆動型イオン輸送タンパク質の構造変化と活性相関の解明 可視共鳴ラマン分光法を用いて発色団の分子構造を、紫外共鳴ラマン分光法を用いてポリペプチド鎖の分子構造を調べる。これらの、光吸収に伴う時間分解スペクトルに基づいて反応中間体の分子構造やそれらの遷移速度を明らかにする。一方、光照射に伴うタンパク質のイオン輸送量をpH電極によって計測し、イオン輸送活性を定量的に評価する。さらに、イオン輸送活性に重要と考えられるアミノ酸残基を別種のアミノ酸に置換した変異体タンパク質を多数作製し、これらについて構造ダイナミクスとイオン輸送活性の計測を行う。タンパク質の構造ダイナミクスとイオン輸送活性の対のデータに基づいて、タンパク質の構造変化と機能活性との相関を調べる。これらのデータから、イオン輸送タンパク質の構造変化とイオン輸送活性の基盤となるタンパク質内相互作用ネットワークを明らかにする。プロトン輸送タンパク質および新しく発見された塩化物イオン輸送タンパク質を対象として研究を行う。 (2)ガスセンサータンパク質の構造変化と活性相関の解明 酸素依存的なリン酸化酵素であるFixLおよび一酸化炭素依存的な転写因子であるCooAを対象に研究を行う。ガス分子のタンパク質からの脱離に伴う、ヘムおよびポリペプチド鎖の構造変化を明らかにする。多数の変異体について測定を行い、タンパク質の構造ダイナミクスと酵素活性との相関関係を調べる。これらのデータから、ヘムと機能部位との構造変化を介したカップリング機構、すなわちガス分子の結合・脱離による機能活性の制御機構を明らかにする。また、キメラタンパク質を用いて、ドメイン単位でのタンパク質改変が機能活性にどのような影響を与えるかを調べ、機能発現に重要なドメイン間の連動性を明らかにする。
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