本研究は、新しい一分子分光計測法と関連技術を開発し、タンパク質のフォールディング過程や機能発現過程に応用すること、さらに新規タンパク質をデザインすることを目標として計画した。本年度は、以下の進展が見られた。 1.ラインフォーカス型一分子の蛍光観察装置を用いて、タンパク質のフォールディング運動を観察し、データの解析方法を深化させた。プロテインAのBドメインについて、二つのラベル化試料を一分子観察し、サブミリ秒の時間領域で揺らぎ運動を行うことを見いだした。ユビキチンの2番目と65番目の残基にAtto532とAlexa647をラベルした。得られた試料を用いて、再現性よく一分子蛍光データを得るための測定条件を確立した。 2.ハイブリッド型フォトダイオードとラインフォーカス型共焦点顕微鏡を組み合わせた高時間分解能一分子観測装置を開発した。本装置を用いることで10マイクロ秒の時間分解能で10ミリ秒程度の観測時間一分子蛍光観察を可能にした。装置を用いてプロテインAのBドメインの計測を行った。 3.発癌制御因子であるp53がDNA上を滑り運動し、標的配列を探索する過程を一分子観察法で追跡した。フローセルの内面にλDNAを伸長した状態で固定し、蛍光色素をラベルしたp53を導入した。このセルを自作の全反射蛍光顕微鏡に設置し、p53がDNA上を滑り運動をする様子を観察した。その結果、p53が幾つかの拡散定数を示すことを見いだした。 4.ファージ・ディスプレイ法と一分子蛍光観察装置を組み合わせ、目的のタンパク質を提示したファージを選択する手法の確立を目指した。GFPのC末端断片を提示したファージにGFPのN末側断片を混ぜ、ファージ表面にGFPを再構成させた。このファージを一分子選別装置により観察・選別し、さらに、回収を可能にした。
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