計画研究
本研究は、先端的な分光計測法によりタンパク質のフォールディング過程や機能を理解し、新規構造をデザインするために計画した。本年度は各課題について以下の成果を挙げた。1.マイクロ秒分解一分子観察法によるタンパク質の高速度ダイナミクスの観察 10マイクロ秒の時間分解能で一分子蛍光を観測するライン共焦点顕微鏡を用い、タンパク質の高速ダイナミクスを追跡した。プロテインAのBドメインについて、一分子蛍光観察を行った結果を報告した。ユビキチンの折り畳み転移の一分子蛍光観察を行い、ユビキチンの変性状態が比較的不均一な集合体であることを示した。また、一分子蛍光観察の障害となっていた試料のフローセル表面への吸着現象を、フローセル内面をMPCポリマーにて被覆することで大幅に低下できることを見いだした。青色蛍光タンパク質(BFP)に二色の蛍光色素ラベルを施し、変性したBFPと分子シャペロンGroELとの間の相互作用について一分子観測を進め、変性させたBFPとGroELの複合体のFRET効率の計測に成功した。ライン共焦点顕微鏡に新しい光検出器であるHPDを導入する装置開発を進めた。さらに、βラクトグロブリンのフォールディング過程についての報告を行った。2.タンパク質デザインを目指した一分子ソーターの開発 タンパク質ライブラリーを提示したファージを一分子ごとに観測し、目的の分光特性を持つファージをセレクトすることで、タンパク質デザインの新しい方法を開発する実験を継続した。蛍光ファージを感度よく検出するための取り組みを行った。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、一分子蛍光測定を難しくする要素として長い間の課題であったタンパク質の吸着問題を防止する方法を発見したことにより、研究の大幅な進展が見られた。すなわち、ユビキチンについての一分子測定をほぼ完了し、論文投稿の直前の状態になっている。BFPについての実験も大きく進み、論文化を検討中である。さらに、二つの溶液を今後し、混合直後の一分子の振る舞いを調べる研究も進めている。このように、平成27年度の研究は計画以上に大きく進展したと考えている。
平成28年度は、以下のように研究をすすめる予定である。第一に、ユビキチンを題材とした一分子蛍光測定の結果を投稿する。第二に、ユビキチンを題材として、フォールディング反応を溶液混合で引き起こした直後の構造変化を一分子観測する実験を進める。第三に、青色蛍光タンパク質が分子シャペロンの助けを借りて構造形成する過程の一分子測定を進める。第四に、プロテインLを題材としたフォールディング過程の一分子測定を進める。第五に、一分子ソーターを用いたファージ選別実験を進める。このように、これまでの方針を堅持し本研究の完成を目指す。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 4件、 招待講演 5件)
Journal of Molecular Biology
巻: 427 ページ: 3158-3165
10.1016/j.jmb.2015.07.018
巻: 427 ページ: 2663-2678
10.1016/j.jmb.2015.06.016
The Journal of Physical Chemistry B
巻: 119 ページ: 6081-6091
10.1021/acs.jpcb.5b00414
Current Opinion in Structural Biology
巻: 36 ページ: 1-9
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