計画研究
第一のプロジェクトである高時間分解一分子蛍光分光法によるタンパク質のフォールディング運動の観察では、ユビキチンの変性状態における構造の不均一性と遅いダイナミクスを明らかにした。変性状態のユビキチンについて、一分子FRET効率観測を行った。その結果、変性状態のユビキチンの構造の不均一性が示唆された。さらに、変性状態のユビキチンについてミリ秒以上のゆっくりした運動が存在することを示した。第二のプロジェクトである一分子蛍光観察法を用いた発ガン制御タンパク質p53の運動解析では、DNAの中心にp53の標的配列を埋め込み、この上をp53がどのように運動するのかを観察した。その結果、p53が標的配列に出会った後で結合する確率が7%でしかないことを見いだした。さらに、活性化変異体ではこの確率が18%となり、不活性化型変異体では0%となった。すなわち、p53は活性化されると結合確率を制御することで標的に結合することが示唆された。p53のDNA上における運動を観察するための新しいDNAの固定化法であるDNAガーデン法を開発した。第三のプロジェクトであるタンパク質デザインを目指した一分子ソーターの開発では、タンパク質を提示したファージのライブラリーの中から、特定の特性を持つタンパク質を提示したファージを、蛍光強度を手がかりに選別する手法を確立すべく努力を継続している。M13ファージの外殻タンパク質であるg8pの一部にGFPを提示させ、従来の100倍以上の蛍光強度をもつファージを作製した。さらに、光学系の全面的な改良を行った。改良した装置を用いて強く光るファージを流すことで、ファージ一個体ごとに選別して測定し、その多くを大腸菌培地に回収し、コロニーを作らせることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究において、我々は高速一分子観測装置を使った測定により、ユビキチンの変性状態における構造の不均一性と遅いダイナミクスを明らかにすることができた。この成果の論文発表も行った。さらに、発ガン制御タンパク質であるp53の運動解析を行い、p53の標的配列を埋め込んだDNAの上をp53がどのように運動するのかを観察することができた。この成果も、論文発表することができた。また、p53のDNA上における運動を観察するための新しいDNAの固定化法であるDNAガーデン法を開発し、論文発表した。以上の成果は、本研究における順調な成果を示している。一方で、タンパク質デザインを目指した一分子ソーターの開発では、M13ファージの外殻タンパク質であるg8pの一部にGFPを提示させ、従来の100倍以上の蛍光強度をもつファージを作製し、さらに、光学系の全面的な改良を行うなどの数々の改良を行った。しかし、当初の目的であるファージの選別には至っていない。この点について、さらに研究努力が必要である。以上の結果を勘案し、概ね順調に進展していると判断した。
本年は、本新領域研究の最終年であり、研究の総まとめとしての成果を上げることを目的とする。第一のプロジェクトである一分子蛍光観察装置を用いた実験では、モデルペプチドを用いることで、変性タンパク質に観察されている不均一なデータの原因を考察する。さらに、溶液混合装置と一分子観察装置を組み合わせることで、タンパク質のフォールディング運動をリアルタイムで観察する研究を実施する。また、HPDを用いたさらに高速の一分子観察装置を完成させる。第二のプロジェクトである発ガン制御タンパク質p53の機能解析では、p53のリンカーの長さを変更した試料についての機能解析、p53が異なるDNAを乗り移る運動の解析、さらに、DNA上の高速の拡散運動の解析等を実施する。これにより、p53の標的配列探索運動について、総合的な理解を目指す。第三のプロジェクトであるファージを一個体ごとに選別する実験では、流路にファージが非特異的に吸着することによるアーティファクトにより、選別が難しくなっていると思われる。今年度は、各種の吸着防止剤を試すことで、流路への試料の吸着をできるだけ防ぎ、ファージの選別を成功させることを目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
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