研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
25104011
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
中西 尚志 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 独立研究者 (40391221)
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研究分担者 |
吉沢 道人 東京工業大学, 資源化学研究所, 准教授 (70372399)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 超分子 / 発光 / 自己組織化 / ホスト-ゲスト / 気液界面 / 液体 / ナノカプセル / ナノカーボンハイブリッド |
研究実績の概要 |
本研究提案では、分子間相互作用を精密制御された光機能性の超分子系の構築、新機能の創成を目指している。例えば、ナノサイズの閉じた分子系からバルクサイズの超分子材料系までを研究対象と設定し、分子・材料の光機能をプローブとして、その複雑な形成・機能のメカニズム解明を目指した。以下に具体的な研究実績内容を示す。 (1)液状分子中で隔離された機能性コアの置かれる環境・相・反応場としての理解を目的として、ピレン色素の発光特性をプローブとするアルキル化液状ピレン分子を合成した。アルキル置換基の導入位置に依存するモノマー/エキシマー間の発光機能と共に、分子運動ダイナミクス、液体物性などの相関を明らかにすることに成功した。 (2)アルキル化C60分子とグラフェンとのハイブリッド化を行った。アルキル化C60/グラフェン修飾電極では、グラフェンなしと比較して270倍の光電変換機能を示すことを明らかにした。この結果は、アルキル鎖を糊として見立てたグラフェンとのハイブリッド化が大きく寄与したことを示す。 (3)2つのアントラセン環を含むV型両親媒性分子は、水中でカプセル状集合体を形成する。今回、その芳香環をナフタレン環またはフェナントレン環に換えることで、それらの自己集合で生成するナノカプセルが、分散状態より高い蛍光性を示すことを明らかにした。 (4)遷移金属イオンを含む配位結合性カプセルは、内包した色素分子の蛍光を阻害する。今回、ある種の色素はその空間内でも、高い蛍光性を維持することを見出した。また、その空間に芳香族分子をペア内包することで、色素の蛍光色を変化させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
有限系ナノサイズの超分子組織化構造の構築に関しては、分担研究者の吉沢(東工大)の下、高発光色素内包カプセル・チューブ、ナノカーボン内包水溶性カプセル・チューブ、金属配位型異方的カプセルの創成など、主には水溶性のナノ集合体の構築が発展的に達成された。分子シミュレーションや高速分光解析など、領域内共同研究もしっかりと成果に結びついている。 一方、代表研究者が担当する無限系バルクサイズの分子材料の創成に関しては、同じくナノサイズの分子間相互作用の制御を基本とするが、常温液状の分子材料の創成が可能となった。特には、機能性コアとなるπ共役分子ユニットの孤立・隔離状況を精密に理解するための分子設計戦略を見出せたことは、今後の液体材料設計の指針となる。また、単純な発光機能に限定されず、近赤外発光、リン光機能も液体材料に組み込む分子戦略も見出せており、今後益々の発展が期待できる。 液体分子系にもあるアルキル-π分子系では、アルキル鎖が糊の役割を果たし、グラフェンとのハイブリッド材料の創成の助けとなることを見出した。グラフェンを酸化・還元する操作も必要なく、高機能化されたナノカーボンハイブリッド材料として、光電変換機能の向上はその有用性を示す顕著な結果であった。
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今後の研究の推進方策 |
代表研究者中西においては、これまでに得られたアルキル化ピレンの発光特性を利用した分子構造・液体・発光機能の相関に関する知見を基に、小さなπ共役系となるナフタレンやパーフルオロベンゼンを基材とする機能性液体の創成概念と、それらを混合させて得られる機能改変型の液体材料において検討を行う。ナフタレンは電子ドナー性が強く、パーフルオロベンゼンはナフタレンと強く相互作用することが知られている。ここでも、本研究の基本概念となる、π共役系分子周りの精密な相互作用制御が、バルク液体物性・光学機能を制御する鍵となる。 また、分担研究者の吉沢においては、内包する色素分子や金属錯体のターゲットをより大きな分子系まで発展させることで、柔軟性に富む分子カプセルの有用性を検討する。また、外部刺激によるカプセル崩壊、ゲスト分子の放出、さらにはカプセル内部を孤立空間反応場として、様々な特異的な自己組織化カプセル機能の創出に注力する。 また、領域内共同研究をこれまで以上に活発化させ、分子ダイナミクスの理解に関して計算化学分野、高速分光技術に長けた研究者らと密にディスカッションしながら研究を推進させる。
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