本研究提案では、超分子化学・分子材料化学に軸足を置き、理論、計測の要求を満たすことのできる分子系、特には分子間相互作用を精密制御された超分子系の構築を目指した。例えば、ナノサイズの閉じた分子系からバルクサイズの超分子構造体までを研究対象と設定し、分子・材料の光機能をプローブとして、その複雑な形成・機能のメカニズム解明を目指す。具体的には、分子組織化過程の理論計算、光励起状態構造・ダイナミクスの研究対象となりうるキャビティーを有する「常温分子液体」や「分子カプセル」に関する研究に取り組んだ。 (1)ナフタレン環の1-と2-に分岐アルキル鎖を導入したアルキル化ナフタレン液体の位置異性体と発光メカニズムの相関関係を検討した結果、両分子群が溶液中ではモノマー発光を示すのに対し、溶媒フリーの液体状態では、1-異性体のエキシマ-形成効率が2-異性体よりも顕著に高いことが分かった。励起状態ダイナミクス計測、分子構造計算による解析も同時に行い、分子構造と発光機能の相関解明を明らかにした。 (2)アルキル化π機能性液体の機能性πコアにダブルデッカー型ルテチウムフタロシアニン(Pc2Lu)を採用し、酸化還元電位制御によるPc2Luの有するスピン活性、それに同調するエレクトロクロミック特性のスイッチングを達成した。 (3)金属架橋カプセルが水中でスクロースを内包できることを見出した。他の天然の二糖との混合物からも、水中で100%の選択性でスクロースが識別された。 (4)金属架橋カプセルに環状硫黄クラスターが定量的に内包され、通常のESI-TOF MS分析で、目的とするクラスター内包体の質量ピークを明確に観測することに成功した。
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