研究領域 | ニュートリノフロンティアの融合と進化 |
研究課題/領域番号 |
25105002
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中家 剛 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50314175)
|
研究分担者 |
中平 武 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (30378575)
市川 温子 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50353371)
小関 忠 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, 教授 (70225449)
清矢 良浩 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80251031)
|
研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
|
キーワード | ニュートリノ / 加速器 / 素粒子実験 / 粒子測定器 / 原子核 |
研究実績の概要 |
ニュートリノにおけるCP対称性の研究に向け、(1)陽子加速器J-PARCとT2Kニュートリノビームの大強度化に向けた開発、(2)ニュートリノ振動の感度向上のための系統誤差の改善、そして(3)ニュートリノ振動パラメータの精密測定、を進めてきた。 (1)加速器とニュートリノビームラインは~400kWの大強度運転を実現した。この結果は、本研究で開発してきたバンチ・バイ・バンチフィードバックシステム(BB-FB)がビーム不安定性を抑制したことが決定的に重要であった。また、BB-FBシステムを使って、加速中のβ関数の測定を行い、その測定をもってビーム調整を行い、加速中のビームロスを削減することに成功した。(2) ニュートリノ振動の系統誤差は、前置ニュートリノ測定器で水標的のデータの解析を行い、系統誤差を~6%に削減した。また、前置測定器で反ニュートリノ反応を解析し、反ニュートリノと水標的の系統誤差も~6%レベルに削減した。 (3) ニュートリノ振動解析では、4.0E20陽子の反ニュートリノビームデータを使って反ミューオンニュートリノ消失を測定し、反ニュートリノ振動パラメータθ23を世界最高精度で決定した。同時に、反電子ニュートリノ出現を探索し、3個の信号候補事象を発見した。ただし、背景事象数が1.5~2.1と見積もられ、有意な信号を発見したとは結論できていない。この結果は、ニュートリノビームで測定したCPのパラメータδCP=-0.5πの場合に反電子ニュートリノ出現が抑制されていることと一致している。今後、データ量を増やし、高統計の測定が必要である。 ニュートリノ振動の研究と並行して、水標的新型ニュートリノ測定器の開発を進め、検出器の1モジュールを製作した。宇宙線を使って試験し、十分な性能が出ていることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目標は、T2K実験で大強度運転を実現し、ニュートリノ振動でCP対称性の測定を実現することである。そのために、J-PARC加速器の大強度化、T2Kニュートリノビームラインの大強度化、そしてニュートリノ振動測定の系統誤差の削減とそれを可能とする新型ニュートリノ測定器の開発が主テーマである。 現在まで(3年間)の達成度を研究計画調書で掲げた5年間の目標に対して比較する。(1) 加速器とニュートリノビームの強度向上は定常値で400kW(目標は500kW)、最高値が530kW相当(目標値は750kW)を達成した。 (2) ニュートリノビームフラックスの系統誤差を3 %で決定した(目標値は3%)。(3) 複数のニュートリノ反応モードの断面積を測定しニュートリノ原子核反応の基準模型を構築した。 (4) ニュートリノ振動解析の系統誤差を6 %に削減した(目標値は5%)。(5) 反ニュートリノビームを用いて反ニュートリノ振動を測定し、世界成功精度でθ23を決定した。また、ニュートリノ振動でCPの破れを探索し、CPが最大に破れているδ=-0.5πあたりがもっともデータと一致することを見つけた。 以上のように、当初立てた5カ年計画のうち8~9割相当はこの3年で達成したと言える。ただし、J-PARCがハドロンホールの事故で1.5年間休止したため、全データ数は現在1.3E21陽子数と当初予定より少なくなっている。今後、データ収集の効率を上げより多くのデータを取得することを目指す。また、将来に向けより小さな系統誤差(目標3%)を実現できる新型ニュートリノ測定器の開発も順調に進んでいる。新型測定器は最初のモジュールが完成した。平成28年度に実験に組み込みニュートリノ事象を観測する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
上で述べたように、当初の目標に対して8~9割相当を達成した。しかし、我々(T2K実験)が電子ニュートリノ出現を発見したことで、CPの破れの測定が現実的な目標となり、世界のニュートリノ研究者が相次いで「CPの破れの発見」を目指している。よって、本研究もこれまでの成果に満足することなく、次のレベルへと研究を進め、CPの破れの感度を最大にすることを目指す。このため、当初の研究計画にはなかったが、反ニュートリノビームのデータ量をより増やし、T2K実験のデータで直接的にCPの測定を実行する。そして、ニュートリノと反ニュートリノ、ミューニュートリ消失事象と電子ニュートリノ出現事象、のすべてのデータを総合的に解析し、ニュートリノ振動パラメータ(θ13、θ23、δCP、Δm2)を同時決定し、CPの破れの探索感度を最大限に引き上げる。また、その次には、原子炉θ13測定、米国フェルミ研NOvA実験の質量階層性の測定、スーパーカミオカンデの大気ニュートリノ測定等の結果を包括し、総合解析で最大限の物理感度を達成することを目指す。ただし、この新目標は野心的であり、残り2年で達成するのは厳しいが挑戦していく。 以上に加えて、次世代のニュートリノCP実験(ハイパーカミオカンデ)で必須となる、最終目標3%の系統誤差を達成できる可能性のある高性能ニュートリノ測定器の開発を進めていく。水標的、薄型シンチレータ、波長変換ファイバー、半導体光子測定器MPPCを使った新型ニュートリノ検出器の第1モジュールは完成しており、ニュートリノ反応の高精度測定を目標とする。
|