研究領域 | ニュートリノフロンティアの融合と進化 |
研究課題/領域番号 |
25105008
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
丸山 和純 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (80375401)
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研究分担者 |
坂下 健 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (50435616)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | ニュートリノ |
研究実績の概要 |
平成27年度は、基礎技術開発に必要な小型液体アルゴンTPC測定器の製作と低コストな低ノイズ読出しエレクトロニクスの開発を進めた。小型液体アルゴンTPC測定器は、大型化にむけて開発を進めている高電圧生成や純化装置の技術実証に使用する。まず主に有限要素法を用いてTPC内に形成される電場を計算し宇宙線データと比較することでTPC内の電場一様性などの理解を進めた。電場分布を理解した上で大型化にむけた要素技術の開発を進めている。 次に読出しエレクトロニクスについては、大型測定器で想定しているチャンネルあたりの静電容量300pFに対応したASICを開発した。またこのASICの搭載したコンパクトな読出しシステムを開発し液体アルゴンTPC測定器に取り付けて性能評価を進めた。ノイズが設計時シミュレーションよりも多いが、測定器からの最小電離電子信号は信号-ノイズ比を10以上で読出しできている。 検出器荷電粒子応答を探るLArIAT実験では、平成27年に取得したデータを解析し、液体アルゴン中のπ中間子散乱断面積を抽出した。これは、ニュートリノとアルゴン原子との相互作用の後に放出されるπ中間子が検出器内でどのような振舞いを行うか理解するために、世界で熱望された物理結果である。現在、論文化を進めるとともに、π中間子データに小さい割合で混入しているビームからのミューオンを取り除く作業を行っている。この除去には、日本が担当してビーム機器として入れたエアロジェルカウンターを使って解析を行う必要があり、現在全力でデータの理解を深めている。 また、平成28年から始まった再度のデータ取得のため、研究代表者の日本での開発経験を活かし、純化装置(液体循環を導入する)の改良や電場の理解を進めた。また、128nmという超紫外シンチ光を直接検出できるMulti Pixel Photon Counterを新たにLArIAT実験に導入してトリガー等を改良するなど、ハードウエア―面での向上も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基礎開発では、低雑音のエレクトロニクスの開発に成功し、実用化試験の段階まで進みつつある。また、中間報告でも報告したとおり、40段のコッククロフト回路を使った高電圧生成装置を開発し50kV以上の高電圧生成を既に達成しており、TPC内の電場分布の理解を進めている。これらの基礎開発の結果は、液体アルゴン3次元飛跡イメージング検出器として、世界のどの大型検出器にも使用可能な汎用性の高いものである。(実際に今後の研究推進方策にあるように、エレクトロニクスはCERNで行われようとしているWA105実験の大型プロトタイプ検出器の一部として使用する予定となっている) また、中間評価で高い評価を受けた荷電粒子を用いた検出器応答試験、LArIAT実験についても、代表者の開発の知識も検出器に結集させつつ、平成27年までにデータ取得に既に成功している。データ解析を行い、論文化することにより、世界のいずれの液体アルゴン3次元飛跡イメージング検出器でも使用可能な、ニュートリノ相互作用後の荷電粒子応答についての理解を進めている。また、複雑なデータを解析するためのソフトウエア―も汎用性が非常に高いものである。 これらの点を鑑みるに、進捗状況としては、おおむね順調に進展している、と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は実際の大型液体アルゴンTPC測定器での技術検証を進める。読出しエレクトロニクスについて、まず低温環境下での安定した動作を確認する。実際の大型測定器ではエレクトロニクスを-160度の環境下で動作させることを想定している。開発したASICを用いた読み出しエレクトロニクスで使用している汎用素子の低温環境下での動作を確認し、次にASICも含めた全体が低温環境下でも動作するように開発を進める。また、国際共同実験で進めているCERN WA105実験の大型プロトタイプ測定器で我々の開発したエレクトロニクスを用いて、実際の大型測定器での技術検証を行う予定である。読み出しエレクトロニクスを複数取り付けて動作させたときでも低ノイズで動作することの検証や、多チャンネル読み出しに必要なデータ圧縮技術などの開発を進める。 荷電粒子応答試験LArIAT実験では、まず、昨年度取得したデータ解析結果を論文化する。また、昨年の物理データ取得に続き、今年も3月からデータを取得している。研究代表者の日本での開発の経験も最大限に活かし、昨年よりもビーム多粒子同時入射事象率を減らし、エレクトロニクスや純化装置の改善を行い、現在順調にデータ取得が進んでいる。このデータ取得作業に積極的に参加する。昨年よりも、高質なデータを取得することで、ビーム中に少量しか含まれないμ粒子やK中間子の検出器応答への理解が進む予定である。日本の担当として、ビーム中にμ粒子識別用のエアロジェルカウンターやμ粒子の崩壊時間を測定することが可能なMPPCを設置しているため、μ粒子の識別を積極的に行い、μ粒子に関する解析を主導していきたい。このため、複雑な解析を行うためのソフトウエア―開発も積極的に行う。
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