研究領域 | ナノ構造情報のフロンティア開拓-材料科学の新展開 |
研究課題/領域番号 |
25106004
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
武藤 俊介 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 教授 (20209985)
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研究分担者 |
山本 剛久 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20220478)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 電子顕微鏡 / 格子欠陥 / セラミックス / 金属物性 |
研究実績の概要 |
本研究では,透過電子顕微鏡のナノ電子プローブを用いた分光法(電子エネルギー損失分光(EELS:伝導帯DOS),カソードルミネッセンス(CL:バンド間遷移),軟X線発光分光(SXES:価電子帯DOS))を集約し,動力学的回折条件によるブロッホ波の対称性を利用して,ナノ構造を内包する試料の電子状態・光学的性質・磁性を,「ナノ分解能で,同じ場所から同時に,かつ元素・サイト選択的に」測定する.そして得られたデータを統計処理することで多角的な情報抽出を行い,共通の分光的特徴を持つ領域の空間分布の可視化を通じて「高角度分解能・多元電子分光」という新たな格子特異点の定量分析法を開拓し,さらにこれらを実際の材料解析へ応用することを目指している. 本年度の主な成果および進捗状況は以下のとおりである: ①超高圧走査透過電子顕微鏡およびEELSによるナノ磁石の磁気モーメントの定量測定に成功した. ②電子チャネリングを利用した二次元格子欠陥の局所状態分析法につて以下の二つを達成した: (1)動力学電子回折理論と第一原理電子状態計算の結合による定量測定法の確立.(2)Bethe法およびMulti-slice法による格子欠陥を含む系における非弾性散乱断面積精密予測プログラムの作成. ③領域内連携研究による材料設計と創製として以下の二つに着手した:(1)Tiの表面酸化処理による骨伝導性発現機構の解析.(2)フラッシュ焼結によるセラミック多結晶体の急速焼結とその機構解明. ④複合酸化物薄膜における陽イオン比制御と新奇機能性薄膜の創成:酸素空孔を制御したSrMnO2.5薄膜のドメイン構造を解明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①本研究経費によって高感度のTEM用カソードルミネッセンス(CL)測定システムを導入した.これにより当初複合電子顕微分光として目指していた価電子バンド(W/EDX),伝導バンド(EELS)に加えバンド間遷移スペクトルを取得するシステムが完成に近づいた. ②本研究の一つの柱である電子磁気円二色性(EMCD)によるナノ領域磁気モーメント測定において,超高圧電子顕微鏡-EELSシステムを鉄多結晶薄膜に適用し,世界初の定量測定に成功した.本成果は英国科学雑誌Nature Communicationsに掲載され,プレス発表も行った. ③ビームロッキングによる蛍光X線のイオン化チャネリングパターンを理論予測する動力学的非弾性散乱理論プログラムの作成に成功した.これによって一般の場合の添加元素の占有サイトと占有率を定量的に精度良く測定する基礎が確立した. ④領域内共同研究として,ファインセラミックスセンターとの共同で,人工骨に使われるチタン表面の窒素酸化処理における窒素の化学状態分析を行った. 以上のような成果を順調に挙げているが,項目③,④の成果について論文化が遅れている点が懸念される.また複合酸化物セラミックスの焼結過程機構の解明についても,実験装置の整備の遅れによって進展が半ばにとどまっている点が遺憾である.
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今後の研究の推進方策 |
①複合電子顕微分光装置については,更に次年度反射電子検出器を装備し,信号収率の小さい波長分散蛍光X線分析(WDX)及びCLに対して,厚い試料からチャネリング信号を取り出しつつ測定信号強度を稼ぐ改良を行う予定である.特にTEM-CLシステムは,世界に先駆けて導入したもので有り,ドラッグデリバリーなどの新たな分野や,ダブルショットキー障壁などのセラミックス分野で未解明のテーマに取り組みたい. ②EMCD測定では,本年度の成果を更に拡張し,強磁性多層膜を1nm程度の分解能で走査することで磁気モーメントの界面付近の位置依存情報を得ていく予定である.更に国際共同研究によって軌道磁気モーメントとスピン磁気モーメントを分離して測定することを世界に先駆けて試みたい. ③本年度確立したビームロッキングによる蛍光X線のイオン化チャネリングパターンによるサイト選択的分析法を,実際のフェライト材料,蛍光材料などの微量添加機能元素に適用し,更に一般化した定量測定法の確立を目指す. ④人工骨に使われるチタン表面の窒素酸化処理における窒素の化学状態分析結果について,窒素の化学状態を同定するために第一原理電子状態計算を実施し,最終的に生体親和性を持つ表面状態の解明を目指す. ⑤薄膜作成装置を移設整備を完結させ,セラミックス粒界の関わる現象の,原子分解能観察による解明に着手したい.
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