研究領域 | ナノ構造情報のフロンティア開拓-材料科学の新展開 |
研究課題/領域番号 |
25106009
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
菅野 了次 東京工業大学, 大学院総合理工学研究科, 教授 (90135426)
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研究分担者 |
田村 和久 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究副主幹 (10360405)
平山 雅章 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (30531165)
鈴木 耕太 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (40708492)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 固体イオニクス / ナノ材料 / 結晶構造 / 高圧合成 / 電気化学界面 |
研究実績の概要 |
エネルギーデバイスに利用可能な固体イオニクス材料の創出のため、1「ナノ構造情報取得」、2「物性開拓」、3「材料探索指針の構築と新物質創成」を実施した。 1. 酸水素化物La-Sr-Li-H-O系のヒドリドイオン導電体を開発し、その構造、イオン導電特性を調べた。この酸水素化物材料はK2NiF4型の結晶構造を有し、La/Sr比,H/O比を様々に変化させた固溶体を形成することが明らかになった。特にアニオン副格子中のH, O比を制御するとヒドリドイオンの占有位置が変化し、H/O比が小さい組成ではヒドリドイオンがペロブスカイト層内を優先的に占有し、大きい組成ではペロブスカイト層だけでなく岩塩層の一部もヒドリドイオンが占有することが明らかとなった。 2. 酸水素化物La-Sr-Li-H-O系材料のLi位置へ遷移金属置換を行った。遷移金属を導入することで、さらなる不定比性の拡張、電子伝導性の発現、磁性、超伝導などの新規物性発現が期待できる。遷移金属を導入した系ではK2NiF4型構造が形成されず、全く異なるX線回折パターンを示した。遷移金属導入によりK2NiF4型相の安定性が低下し、他の構造を有する相が形成されることが明らかになった。さらなる組成、合成条件最適化により新規な構造と物性を有する物質群の開拓が期待できる。 3. A02(エ)班との連携により、La-Li-O系酸化物導電体の構造とイオン導電機構に関する第一原理計算を行った。構造モデル設定し酸素拡散前後の安定化エネルギーを計算した結果、ペロブスカイト層内の酸素欠損を利用したイオン拡散が最も有利であることが明らかになった。また、第一原理計算から得られたイオン導電の活性化エネルギーは実測値とほぼ一致し、実験事実と計算結果一致した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
項目1においてイオン導電特性を示す新規材料を、リチウムイオン、ヒドリドイオン、酸化物イオン導電体において発見し、さらに組成や構造の多様性を開拓している。得られた材料の結晶構造は、リートベルト解析によって、その平均構造解析が進んでいる。また、そのイオン導電特性についても評価を行っている。特に、ヒドリドイオン、リチウムイオン導電体は全く新規な構造を有する材料を見出しており、材料開発における重要な成果が得られた。項目2においては、遷移金属を添加した酸水素化物系の材料において新たな構造と物性を示すことが期待出来る物質群開発に目途がたっており、平成28年度以降にさらなる構造、メカニズム解析と計算化学との連携をするべき材料を見出した。項目3については、項目1、2で得られた成果を基に計算科学による解析を進めている。酸化物イオン導電体について有用な成果が得られ始めており、シンセシス型と、アナリシス型を融合した材料開発の実現に向けて着実に成果をだしている。以上より、本年度の進捗は、当初計画に沿って順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
材料の電子情報、結晶情報、ナノ構造情報を総合的に解釈することが、新規固体イオニクス材料の設計指針を確立するために必要である。新規イオニクス材料の合成(A03)、ナノ構造情報の取得と理論計算(A01, A02)の連携を発展させ、合成、評価、理論計算、情報学の融合により、従来までの材料探索領域を拡張する。連携で成果の上がっているヒドリドイオン導電体を研究対象の主軸とし、酸化物イオン、プロトン、リチウムなどのイオン導電体についてもナノ構造情報に基づいた新規材料の創出をめざす。 項目1:「イオニクス材料のナノ構造情報取得」これまでに開発したイオニクス材料群を対象に、電子顕微鏡・量子ビームを利用したナノ構造解析を進める。観測雰囲気を制御した測定条件および手法を確立させる。多様な観察プローブにより得られた構造情報を総合的に解釈し、イオニクス材料のナノ構造と発現する物性、電気化学特性の相関を明らかにする。電気化学反応場での構造解析を展開して、デバイス性能を決定付ける電気化学反応中のイオニクス材料の構造変化を明らかにする。 項目2:「イオニクス材料の物性開拓」薄膜などのモデル化した物質を用いて、ナノ領域におけるイオン導電率、電子伝導率、電気化学反応と構造の相関を詳細に検討する。A02(エ)班との連携を強化し、第一原理計算の手法を発展させる。様々なイオニクス現象に適した構造の構築方法を検討し機能向上を目指す。 項目3:「材料探索指針の構築と新物質創成」ヒドリドイオン、酸化物イオン、リチウム導電体の新規物質群を開拓する。予測・合成・検証・フィードバックのサイクルを確立し、設計指針を高度化する。計算科学との連携を強化して、探索すべき構造、組成を吟味したうえで「シンセシス型」の材料探索を実施する。項目1,2で得られたナノ構造情報についても探索領域の決定に反映させる。
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