研究領域 | 宇宙における分子進化:星間雲から原始惑星系へ |
研究課題/領域番号 |
25108002
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
香内 晃 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60161866)
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研究分担者 |
羽馬 哲也 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (20579172)
日高 宏 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (00400010)
橘 省吾 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50361564)
薮下 彰啓 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (70371151)
荒木 光典 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, プロジェクト研究員 (90453604)
中野 英之 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (80554310)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 星間分子雲 / 表面原子反応 / 光化学反応 / 氷 / 有機物 |
研究実績の概要 |
星間分子雲における,氷・有機物の生成・進化過程の全体像を明らかにすることを目的とする.本研究計画では,分子雲に存在する低温の星間塵上で起こる原子反応および光化学反応に関する実験を系統的・定量的におこなう.その上で,各種反応の反応速度,生成物の分岐比などを決定する.実験生成物の化学組成・同位体組成は分析班で分析し,観測班・理論班の研究成果を包括することにより,分子雲における化学進化の大筋を描き出す. 極低温表面原子反応実験装置を用いて,酸素原子と水素原子との反応によって生成した水分子の核スピン状態を共鳴多光子イオン化-飛行時間型質量分析法で測定した.その結果,生成した水分子のオルト/パラ比は統計重率の3であり,これまで考えられてきたような小さな値ではないことが初めて実験的に明らかになった.この成果は,これまで考えられてきた彗星の氷は30Kで生成されたという考えを明瞭に否定するものである. 極低温超高真空原子間力顕微鏡を用いてアモルファス氷の表面構造の基板温度依存性(100K, 40K),蒸着方法(斜め蒸着,バックグラウンド蒸着)依存性を初めて明らかにした.その結果,これまでは100Kでは表面構造は平坦になると考えられてきたが,そのような考えとは全く異なり,凹凸の大きな表面であることが初めて明らかになった. 光化学反応実験装置を用いて,不純物を含む氷(H2O, CH3OH, NH3)への紫外線照射による有機物生成実験を定常的に行っている.紫外線照射後に基板の温度を上昇させる過程を光学顕微鏡で観察したところ,60-150Kの広い範囲で粘性の大きな過冷却液体になっていることを見出した.この結果は,これまで不純物を含む氷は低温では固体と思われてきた常識を否定する結果で,非常に意義のある成果である.得られた有機物の化学組成は,分析班等に依頼して各種分析を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書に記載した通り,極低温超高真空原子間力顕微鏡および極低温超高真空透過型電子顕微鏡による表面構造観察,光化学反応実験の定常的遂行,光化学反応の素過程解明は,おおむね計画通り実施できた. 酸素原子と水素原子との反応によって生成した水分子の核スピン測定では,10K で生成したにもかかわらず,生成した水分子のオルト/パラ比は統計重率の3であることを初めて見出した.これはこれまでの考え(氷の水分子のオルト/パラ比は生成温度に依存して変化する)を完全に否定する結果であり,彗星の氷の起源を見直す必要があることを示す画期的な成果である. 極低温超高真空原子間力顕微鏡を用いたアモルファス氷の表面構造の基板温度依存性(100K, 40K),蒸着方法(斜め蒸着,バックグラウンド蒸着)依存性の観察は初めて系統的な観察がなされたもので,画期的な成果である. 不純物を含む氷(H2O, CH3OH, NH3)への紫外線照射後に基板の温度を上昇させる過程を光学顕微鏡で観察したところ,60-150Kの広い範囲で粘性の大きな過冷却液体になっていることを見出した.この結果は,これまで不純物を含む氷は低温では固体と思われてきた常識を否定する結果で,氷中での化学反応速度の増大や氷星間塵の付着成長機構を見直す必要があることを示しており,画期的な成果である. 以上のことから,研究は,「期待以上の成果が得られた」考えている.
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今後の研究の推進方策 |
基本的には,当初の計画通り研究を推進していくことで,研究目的を十分に達成できると考えている.アモルファス氷表面原子反応実験,原子間力顕微鏡による氷表面構造観察,極低温超高真空透過型電子顕微鏡による氷の構造の研究,光化学反応の素過程解明,新規分子の実験室分光実験では,これまで通りの態勢で研究を推進していく. 平成27年度に,不純物を含む氷(H2O, CH3OH, NH3)への紫外線照射後に基板の温度を上昇させる過程で,広い温度範囲での過冷却液体の出現が発見された.平成28年度には,それを異なる手法で確認するために,誘電緩和時間の測定おこなう. 光化学反応で生成された有機物の分析では,元素組成分析(軟X線分光,透過型電子顕微鏡によるEDX分析,2次イオン質量分析計による),同位体組成分析(2次イオン質量分析計による)を重点的に推進していきたい.
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