計画研究
本研究の目的は,分子雲から微惑星にいたる原始惑星系円盤進化により,どのような有機物が合成されるか,あるいはどのような化学変化を被るか,その結果,微惑星にもたらさえる有機物はどのような特徴をもつのか,実際に彗星や隕石から抽出される有機物はそのような過程の何を見ているのか,を明らかにすることである.原始惑星系円盤は分子雲から微惑星形成に至る過程で温度,密度の条件が著しく変化することから,低温から高温に変化する過程で固体表面上でもっとも効果的におこる触媒反応を明らかにすること,その場観察において,その反応過程を明らかにすることを目指している.全体として順調に進展しているが,実験部分においていくつかの困難も明らかとなってきている.(1) 前年度までに開発した触媒反応実験装置を用い,水素ガスと一酸化炭素分子ガスをFeあるいはNi金属上に吸着させ,有機物合成実験をおこなった.予備実験の結果,水素ガスは空気とのコンタミネーションの識別が困難なため,重水素を用いることが有効であることが判明した.その結果,単純な有機物の合成に成功した.ただし,その同定は当該装置では困難であり,軟X線顕微鏡による実験が必要であることが明らかとなった.(2) 軟X線顕微装置は対物レンズを用いた像観察に成功し,本計画の重要な目的の一部が達成された.ただし,本装置は空間分解能において限界があり,当初予定のウオルターミラーによる装置開発が必要である.ミラー開発は,当初予定より遅れており,SPrin-8 に実装するに至っていないが,理論的検討・実装用ミラー作成を継続して進めている.(3) 触媒反応の理路的予測および原始惑星系円盤における有機物変化に関する理論的研究は順調に進展しており,実験結果が得られれば,ただちにモデルに組込むことが可能となっている.
2: おおむね順調に進展している
本計画においては,原始惑星系円盤条件において,固体表面における有機物形成を実験的におこない,その反応速度・官能基ごとの同位体特性を決定することが目的である.そのため,新たな実験装置開発と,反応をその場観察できる軟X線顕微装置の開発を進めている.本年度の全体としての到達度は,おおむね順調,という結論である.その理由は以下のとおりである.(1) 新規開発の装置による基板上において単純な有機物合成には成功しているものの,現実の原始惑星系円盤条件より高い圧力条件が必要であるという結論を得ている.このことは,有機物合成には大きなエネルギーバリアが存在することを意味しており,表面拡散時間を長くする必要性がある. (2) 結像型軟X線顕微鏡開発に関しては,試料ホルダー開発をおこない,それを用い,前年度までに開発した対物レンズを用い空間分解能 200nm において顕微画像の取得に成功した.本対物レンズによる空間分解能は限界まで高精度化されていると結論した. (3) 結像型軟X線装置における表面分析の解析方法を第一原理計算により進めた結果,表面とバルク物質の結合状態の違いを有意に判別できることが明らかとなった.この方法を用いることで,固体表面上で形成された有機物の特性を明らかにできることが判明した. (4) 固体基板として結晶質フォルステライトを想定した,表面エネルギーを従来決定されていなかった面に関しても決定した. (5) 原始惑星系円盤における物質移動の結果,低温で安定な物質分布の時空変化のモデル化を進め,予察的な結果として,分子雲において形成された有機物は太陽系の10au より外側において安定であり,やや変成した有機物は数au 程度に分布することが明らかとなった.
原始惑星系円盤条件における固体表面上の有機物形成を,その反応速度・官能基ごとの同位体特性の決定のため,前年度の問題点を克服すべく,以下の計画を進める.(1) 新規開発の装置による実験に関しては,円盤条件より高い圧力から,圧力を変化させた実験により,有機物が合成される条件と合成されなくなる条件との境界を明らかにする.また,基板を複数種の金属によりおこない,金属種と有機物合成率の関係を明らかにする.さらに,温度を変化させ,温度による合成有機物の種類の関係を明らかにする. (2) 結像型軟X線顕微鏡開発に関しては,対物レンズを用いた観察を進める一方,空間分解能をあげるため,当初予定のウオルターミラー開発を進め,それを用いたコンデンサー-ミラを作成する. (3) 固体表面における有機物合成の第一歩となる,CO分子の吸着エネルギーを理論的に予測する.第一原理計算により,すでに表面構造を決定したフォルステライトの表面に吸着するCO分子が,どのようなサイトにどれだけのエネルギーで吸着するのかを明らかとする.それが成功した次には,非晶質フォルステライト上で同様の計算をおこなう.非晶質フォルステライトのモデルは,理論班により決定されたものを用いる. (4) 原始惑星系円盤における物質分布の時空変化のモデルを,温度変化による有機物化学組成変化をとりこみ改良する.また,結果に大きな影響を与えると想像される原始惑星系円盤の物理構造(サイズ,粘性など)の効果を定量的に評価する.
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (21件) (うち国際共著 10件、 査読あり 21件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 9件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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