計画研究
星間分子雲には複雑な分子の存在が確認され,隕石等の地球外物質中に水素や窒素の重い同位体が濃集した有機物が存在し,これらの関連が指摘されている.しかし,宇宙空間において同位体濃縮がどのようなプロセスでできたかは明らかではなく,生成過程と分子構造との関係についての研究は少ない.本研究では,難燃性有機物から可溶性有機物まで極微量有機物に対して,網羅的に分子構造を同定し,同位体を含め世界最高感度で分析する手法を開発し,実験班と協力して合成する濃縮同位体をトレーサーとした分子雲・原始惑星系模擬有機物の定性定量分析,有機化合物単位の構造解析・同位体分析を行うことにより,分子雲,原始惑星系での有機物生成過程と分子構造との関係を解明する.地球外物質中の極微量有機化合物に同様の分析方法を適用し,隕石有機物分子と分子雲分子・原始惑星系分子をリンクする新しいマーカー分子・マーカー官能基を探索する.本年度は以下の研究成果が得られた.(1)極微量宇宙有機物試料の世界最高感度の分子構造解析と同位体分析手法の開発:炭素数5以下の全αキラルアミノ酸に対して一斉分析システムを構築した.隕石より検出された有機物とそれらに構造の類似している有機物,その他、酸素と窒素を含む有機物を中心に研究室に保有している試薬の約400種についてMS/MSのデータと、標準的なHPLCの溶出時間についてのリストを構築した.(2)同位体トレーサーを用いた星間有機物生成経路の研究:星間で最も始原的な窒素で,化学反応性の高いアンモニアガスの吸着・脱着プロセスに着目し,分子レベルでの窒素同位体分別に関する基礎過程の実験的評価をまとめた.(3)隕石有機物と星間有機物をリンクするマーカー分子・マーカー官能基の探査:隕石母天体環境を模したアルデヒドとアンモニアの水溶液反応によって生成するCHN化合物の分子レベル炭素・窒素同位体比測定法の検討を行った.
2: おおむね順調に進展している
(1)極微量宇宙有機物試料の世界最高感度の分子構造解析と同位体分析手法の開発については,αキラルアミノ酸の一斉分析システムを開発し,隕石中の候補有機物400種に対するMS/MSとHPLCのデータベースが完成した.(2)同位体トレーサーを用いた星間有機物生成経路の研究については,星間アンモニアガスの窒素同位体分別の基礎実験を完了した.(3)隕石有機物と星間有機物をリンクするマーカー分子・マーカー官能基の探査については,隕石母天体の水溶液反応により生成する有機物の分子レベル炭素・窒素同位体比測定法の検討を行い,複雑な混合物の分離法に成功した.以上の研究計画に対応した進捗に加え,以下のように当初計画になかった研究成果が出てきている.実験生成物のアミノ酸画分に含まれるアルキルアミン化合物群の分離・同定を行う分析法を新たに開発した.隕石に含まれるアミノ酸について,分子レベル窒素同位体比の測定に成功した.マーチソン炭素質隕石中に今までの報告例のないアミノ酸10種を発見・同定し,それらヒドロキシアミノ酸が隕石母天体上でアルデヒドとアンモニアとの反応によって生成している可能性が高いことを明らかにした.小惑星,火星,月などの水素同位体組成を決定しているアパタイト結晶の水素拡散挙動を明らかにするため,D2O雰囲気下におけるc軸方向のFluorapatiteの水素拡散係数を決定した.
(1)極微量宇宙有機物試料の世界最高感度の分子構造解析と同位体分析手法の開発:各種スタンダードのデータベース作成により,合成物質の構造解析を進め,重水素置換体,13C置換体,15N置換体を区別したアミノ酸分析法を確立する.(2)同位体トレーサーを用いた星間有機物生成経路の研究:A01班と共同で合成した試料の分析をさらに進めていく.これまでの解析結果から,多くの同族体のグループが存在することが明らかになったので,それらの同族体グループの中でもっとも簡単な(分子量の小さい)化合物を中心に,取りうる構造を列挙し,これまでに隕石分析などから報告されている化合物の構造と対比させながら候補化合物を選択し,分子構造を明らかにする.星間で最も始原的な窒素で,化学反応性の高いアンモニアガスの吸着・脱着プロセスに着目し,分子レベルでの窒素同位体分別に関する基礎過程の実験的評価を進める. (3)隕石有機物と星間有機物をリンクするマーカー分子・マーカー官能基の探査:隕石有機物の化学構造と同位体組成を解析することにより,星間有機物とのリンクから宇宙における化学進化を明らかにする.特に,アルデヒドとアンモニアの反応によって生成する化合物の構造解析と同位体比分析(13C/12C, D/H, 15N/14N)を重点的に行う.また,隕石中に酸素に富む有機物も発見されたので,3酸素同位体比分析を行うことにより,隕石有機物の同位体分別の特徴を明らかにする.(4)以上の成果を総括して,宇宙有機物の生成過程と分子構造との関係を解明する.
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すべて 雑誌論文 (23件) (うち国際共著 13件、 査読あり 23件、 謝辞記載あり 18件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (62件) (うち国際学会 26件、 招待講演 13件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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