研究領域 | 3次元半導体検出器で切り拓く新たな量子イメージングの展開 |
研究課題/領域番号 |
25109006
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
坪山 透 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 講師 (80188622)
|
研究分担者 |
原 和彦 筑波大学, 数理物質科学研究科(系), 准教授 (20218613)
石川 明正 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40452833)
外川 学 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50455359)
幅 淳二 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (60180923)
|
研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
|
キーワード | 素粒子実験 / ピクセル検出器 / SOI CMOS技術 / サブミクロン / 耐放射線性能 |
研究実績の概要 |
本計画研究の目標は、高輝度LHC, 国際リニアコライダ, SuperKEKB等の現在準備が進む素粒子実験で提案可能なピクセルセンサーを実証することである。そのためには 高い位置分解能 (1-2μm), 時間分解能 (100ナノ秒程度), 耐放射線性 (1MGy以上),センサー薄化(50-100μm)が要求される。これらの目標を達成するため、平成26年度は以下の研究を行った。 (1) DSOI技術の評価:SOIでは酸化膜層が放射線で電荷を捕獲しトランジスタ特性が変化することで耐放射線性が制限される。SOI層を2重に持つDSOIウエファを用い、追加SOI層に補正電圧を加えることで、この影響を除去する可能性がある。本年度はDSOIによるトランジスタ/要素回路試験チップの照射試験を行い、放射線劣化した特性が回復することが分かった。 (2) SOFIST1チップの設計:ILC用のピクセルセンサーには高い位置分解能とピクセル毎の時間記録機能が必要である。このチップの概念設計とピクセル回路レイアウトを年度当初から開始したが、設計の途中でおこなったシミュレーションの結果、ピクセル中に設置する初段増幅器の増幅度が不足し、回路・レイアウトの改善が必要であることが判明した。その対応のため、研究が約5ヶ月遅延し、ピクセル製造開始を次年度に行う必要が生じ、研究費の繰り越し申請をおこなった。その後は、設計を継続し繰り越し申請したとおりにチップの設計を終え製造を開始した。 (3) 大阪大学RCNP施設に於けるビーム試験:ピクセルセンサーの評価で重要な粒子に対する応答を測定する実験を行った。高位置分解能をめざして試作したFPIX型ピクセルセンサー粒子を用い、センサーからの信号を用いて、十分な検出効率が有ることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1) 平成26年4月にILCでの使用を目指すピクセルセンサー(Sofist1)の概念設計を開始した。しかし、9月に行ったシミュレーションの結果、信号増幅回路の増幅度が不足し、十分な信号処理ができないことが判明した。そのため、ピクセルセンサー設計の大幅な修正が必要となり、開発計画に遅延が生じ、H27年2月には約5ヶ月の研究の繰越申請をおこなった。その後は設計が計画どおりに進行し、平成27年5月にはピクセルセンサー試験チップの製造を開始することができた。開始後は、その評価方法の検討を開始し、必要な装置の準備をはじめた。センサーの受領後、パッケージングを行い、評価を開始した。この期間、評価に必要な回路を開発し製造を行った。 H27年7月以降は、Sofist1に引き続き、ヒット時間測定回路を内蔵する「Sofist2」チップの設計を開始した。使用する回路要素の種類も数もふえているが、Sofist1で得た開発のノウハウにより、設計が順調に進行している。 (2) 放射線耐性の評価に関しては、回路要素のDSOIで高い放射線耐性が実証されたためDSOIを含むピクセルセンサーの粒子による評価を開始した。計画研究当初の予想以上の耐放射線性能が確認できつつあり、1MGy以上の放射線耐性が要求されるHL-LHC(高ルミノシティーLHC)でも長期間使用可能なピクセルセンサーとして使える技術になりつつある。 (3)大阪大学RCNP研究所の、やや低い運動量の試験ビームラインでおこなったビーム試験でSOIピクセルセンサーからの信号が確認できた。 FPIXセンサーから期待される信号強度分布が得られており、実際の素粒子実験で、大量の放射線照射後も十分に使える感度・位置分解能をもつピクセルセンサーの設計が可能であることが示されている。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)H27年5月に製造を開始したSOFIST1は10月に完成し、セラミックパッケージにに実装後、評価を開始する。評価の対象は(a) ピクセルの増幅度とノイズ特性(b)読み出し回路(サンプリングとアナログデジタル変換 (c)イメージセンサーとしての2次元高速読み出し、である。こうした評価結果はH28年5月に製造開始をするSofist2ピクセルセンサーの設計に反映させる。最終年度(H29) にはILCバーテックス検出器に必要な全ての機能を持つピクセルセンサー(sofist3)を試作しその性能を評価する予定である。 (2)放射線耐性に関しては、DSOI技術の研究を継続する。H26年度の研究で放射線損傷の性質・程度に応じて、追加SOIの補正電圧が違うことが分かった。したがって、領域ごとに異なる補正電圧を掛ければ、更に高い耐放射線性能が得られると予想される。H28年にこのセンサーの評価を開始し、最終年度までにはこの確認を行い、HL-LHC数年分の照射料である1MGyで使えるピクセルセンサー技術を確立する。 (3)RCNP研究所でのビーム試験データの解析より、十分な検出効率・信号強度分布を持つことが確認できた。この結果はピクセルセンサーの運転ならび次の設計に反映させる。さらに、H28年度には、ピクセルセンサーの性能(特に電荷分布・位置分解能・検出効率)を精密に評価するため高エネルギー粒子を用いたビーム試験をする予定である。H27年度にはそのための検討と準備をおこなう。
|