研究領域 | 3次元半導体検出器で切り拓く新たな量子イメージングの展開 |
研究課題/領域番号 |
25109009
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
粟津 邦男 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30324817)
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研究分担者 |
間 久直 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70437375)
青木 順 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90452424)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | イメージング質量分析 / 投影型 / silicon-on-insulator / 3次元半導体検出器 / 量子イメージング |
研究実績の概要 |
本研究課題ではイメージング質量分析(imaging mass spectrometry; IMS)による迅速で高解像度な生体内分子イメージング装置の開発を行っている。過去の研究で通常の走査型IMSよりも短時間での測定が可能で高解像度な投影型IMS装置の開発を行い、世界最高の空間分解能1 μmを達成した。しかし、投影型IMSの実用化にはイオンの入射位置と到達時間の両者を同時かつ高頻度に測定可能なイオン検出器の開発が必要となるため、silicon-on-inslulator(SOI)半導体ピクセル検出器を用いた新規イオン検出器の開発を進めている。本研究課題で開発する生体内分子イメージング技術の実現により、バイオ・医療分野では病理研究や迅速な病理診断に加え、放射性物質の体内動態の測定などへの応用が、医薬品業界では新薬開発の高効率化が期待できる。工業分野でも新たなアプローチでの有機電子デバイス開発などが可能になると予想される。 投影型IMSに必要となるSOI半導体ピクセル検出器について、現時点での目標仕様は、時間分解能1 ns、時間測定のダイナミックレンジ12 bit、ピクセルサイズ40×40 μm2、ピクセル数256×256個、チップサイズ10×10 mm2である。平成27年度までにA01班、A02班の協力の下、検出器の詳細な仕様検討を行い、ピクセルサイズ40×40 μm2、ピクセル数64×64個、チップサイズ6×6 mm2の試作チップ、そして同チップを動作させるための回路基板、およびプログラムを作製した。また、これらの評価に用いるためのIMS用レーザーイオン化イオン源、真空容器、およびイオン光学系用の高圧電源の設計・製作を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度までにA01班、A02班の協力の下、検出器の詳細な仕様検討を行い、ピクセルサイズ40×40 μm2、ピクセル数64×64個、チップサイズ6×6 mm2の試作チップ、そして同チップを動作させるための回路基板、およびプログラムを作製した。当初の計画ではSOI半導体ピクセル検出器の試作は各年度に1回のみ行う予定であったが、試作の機会を最大限に活かすため、平成25、26年度は年に2回の試作を行った。これまでに製作が完了している試作チップは時間分解能1 nsを得るための回路(time memory cell)が組み込まれており、設計どおりに動作することが確認できていることから、目標としている時間分解能1 nsを実現できる見通しが得られた。IMS用レーザーイオン化イオン源、真空容器、およびイオン光学系用の高圧電源の設計・製作が完了しており、イメージング実験を行う準備が整っている。平成27年度には2,500千円の追加配分も受け、これによりマイクロチャンネルプレートとSOIピクセル検出器を一体化させ、検出感度を高めることができたことに加え、試料へ均一にレーザーを照射する光学系も構築できた。以上より、SOI半導体ピクセル検出器、およびIMS装置のどちらの開発も当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度までに製作した試作チップ、同チップを動作させるための回路基板およびプログラム、これらの評価に用いるためのIMS用レーザーイオン化イオン源、真空容器、および高圧電源を用いて試作チップの動作確認、および時間分解能等の評価を行う。評価実験の結果を基に改良を加え、平成28年度内に1回の試作を行い、平成29年度に本研究課題における最終版となるSOI半導体ピクセル検出器の製作を行う。 これまではイオン化にパルス繰り返し周波数が50 Hzのレーザーを用いていたが、測定のスループットを向上させるために繰り返し周波数1 kHzの高繰返しレーザーを平成27年度に導入した。H28年度はこの高繰返しレーザーを用いたイメージング実験を行う。さらに、結像収差を抑制したイオン光学系による空間分解能の改善についてイオン軌道シミュレーションによる検討を行う。 IMSでは試料を厚さ数μm以下の切片にする必要があるため、マウスなどの動物や培養細胞などの生体から極薄試料切片を作製する方法について検討を行う。生体分子のような高分子のイオン化にはマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(matrix-assisted laser desorption/ionization; MALDI)が一般的に用いられているが、MALDIではマトリックス(イオン化補助剤)の結晶が最低でも数μmになってしまうことが空間分解能を制限してしまう。このため、試料切片へのマトリックス塗布を自動で行う装置を開発することによりマトリックス結晶を小さく均一にする手法を検討することに加え、マトリックスの代わりに鉄や金を含むナノメートルサイズの微粒子を用いたイオン化法(nanoparticle-assisted laser desorption/ionization; nano-PALDI)の適用も検討する。
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