研究実績の概要 |
本研究領域では「分子アーキテクト」による分子の組織化とそれによる機能創製が目標になるが、その「土台」となる表面の設計と計測・物性制御 がA02班の役割である。そのなかで我々研究グループは(1)スピン注入(2)単一分子磁石をキーワードに進め、スピンを用いた分子伝導のゆらぎを用いた新しいデバイス動作を開発する。特に我々のグループが得意とするトンネル電流による分子操作は、単分子単位での分子の構造操作が可能であるだけでなく、スピンの制御および検知にも用いることができる。単一スピンの制御を可能とする'分子技術'を検証するのに最適なツールである。具体的には、「いかなる分子コンフォーメション変化で分子のスピンが変化・制御可能か」という実験と、「空間的に制御可能なトンネル電流で実際の分子の操作が可能か」という2つの大きな問題を実空間で解決することができる。 本年度、領域内の共同研究で、水素化されたテルビウム・2層ポルフィリン錯体(2, 3, 7, 8, 12, 13, 17, 18-octaethylporphyrin (OEP)-TbIII double-decker complex, (TbIII(OEPH)(OEP))の提供を受け、これを実証した。先行研究でTbIII(OEP)2は単一分子磁石であるが、その窒素原子に水素原子を付加したTbIII (OEPH)(OEP)分子は単一分子磁石の性質を失うことが示されていおり、また同時にリガンドの不対パイ電子も消滅する。実験ではTbIII (OEPH)(OEP)分子の単分子膜を作成し、STMで観察後、~1.5Vのエネルギーを持つトンネル電子を注入した。その結果、ターゲット分子のみが明るい分子に変化した。第一原理計算と組み合わせることで、この明るい分子がトンネル電流によって誘起された脱水素によって作成されたTbIII (OEP)2分子であることが示された。そのスピンの挙動は、分子のスピンによって形成される近藤共鳴を検知することで調べる手法を用いてこれを明らかにした。
|