研究領域 | 分子アーキテクトニクス:単一分子の組織化と新機能創成 |
研究課題/領域番号 |
25110005
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
米田 忠弘 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (30312234)
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研究分担者 |
道祖尾 恭之 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (10375165)
高岡 毅 東北大学, 多元物質科学研究所, 講師 (90261479)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 分子磁性 / 近藤効果 / 単分子磁石 / スピン偏極 |
研究実績の概要 |
Ag(111)表面に吸着したTbPc2のスピン挙動について調べた。単層吸着層について、Au(111)に吸着した場合に見られた、近藤共鳴は観察されなかった。これは分子とAg(111)表面の強い相互作用によって分子のラジカル軌道に電子移動が生じ、そのためにラジカルが消滅したため観察されなかったと考えられる。しかしながら2層目に吸着した分子について、明瞭な近藤共鳴が観察された。これはAg(111)表面との強い相互作用が一層目の分子層の存在によって弱められ、ラジカルスピンが生き残ったためと考えられる。さらに、この系に外部磁場2Tを印加した場合、ピークとして観察されていた近藤共鳴が、ディップに変化することを見出した。この現象は、非弾性トンネル過程と考えられる。すなわちトンネル過程で、磁場中のスピンの反転に由来するもので、その励起過程はコンダクタンスの増加として観察される。2層目に吸着した分子ではこのような非弾性過程によるスピン励起過程が選択的に観察されることを世界に先駆けて示した。 さらに、分子のスピンを原子レベルでの検知に、スピン偏極STM(SP-STM)の重要性が増加していることから、この技術を確かなものにするため、金(111)表面にコバルト2層の島を成長させそれをSP-STMをもちいて磁気異方性エネルギーを求めた。磁気異方性エネルギーを三重大・中村グループの計算と比較を行った。SP-STMを用いることにより軌道スピン軌道作用により大きな磁化反転エネルギーが得られることが示された。また分子との磁気相互作用による伝導特性の変化を現実に近い形で実現するため、MoS2 FETを用いた分子検出に関する研究を行った。A02班大阪大学産研の松本グループから技術的な指導を受けて、電気測定による磁気分子検出デバイスの作成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本領域では単一分子単位の電気伝導を用い、特にそのゆらぎを活かした新しい分子デバイスの作成を目指すものである。そこでは、有機分子の単一分子レベルの伝導特性を決定することは重要な意味を持つ。分子の精密な電子状態を反映した伝導特性は、単一分子の両端を電極に橋かけた状態で初めて明瞭に現れ、近年おおくの技術的進歩がその研究を可能とした。本グループはA02班として、分子の組織化とそれによる機能創製の土台となる表面の設計と計測・物性制御が目標である。特に、分子スピンと分子電流の相互作用の学理探求と、その制御による応用展開を目指す。単純な表面構成から発展して、近年注目される層状化合物を用いた電界効果トランジスタと単一分子で磁石の性質を示す単一分子磁石を組み合わせることで、新奇な量子効果の物理化学的な学理探求と、応用につながるスピンを用いた電気伝導制御を目指すものである。 このような目標に鑑みて、本年度は単一分子磁石であるTbPc2分子のスピン状態が基板を金から銀に変化させることで近藤効果がスイッチ・オン・オフする現象や、2層目以降では近藤効果が回復するがスピン反転に相当する非弾性トンネル効果が同時に現れることを示せたことは、単一分子磁石を用いた実験では最初の現象である。またスピン偏極STM(SP-STM)の重要性から本年度に探針評価として応用が可能なコバルト2層島のスピン偏極性測定ができたことはこの分野の安定したスピン偏極探針提供に貢献できると考える。また、トンネル現象を通じて得られた分子スピントロニクスに通じる単一分子磁石の挙動を、よりマクロな現象に繋げる必要性から、層状化合物半導体を用いた電界効果型トランジスターと分子を組み合わせたデバイスを構築したことも、この研究分野の拡大に貢献できたと考える。これらから概ね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度には前年度までに開発したスピン偏極した探針を用いて、A01班の小川グループおよび宇野グループから提供されるラジカル分子や磁性分子を用いて、基板表面上に吸着したときに、それらの分子が示すスピン挙動を今までにない精密測定を行う。その上で、強磁性基板を用い、吸着したそれらの分子の伝導特性を、基板と分子の両方のスピンを精密に測定した上で、計測する。この計測は従来にない分子スピントロニクスに関するデータを与える。特に、小川グループは単一分子磁石である2層ポルフィリン分子を合成することが可能で、その分子の提供を受けて、単一分子磁石がスピンの情報を保持して、かつその情報が伝導特性に繁衍されることを原子レベルで計測する。 さらに前年までに開発した2硫化モリブデンを始めとする層状化合物を用いた単層電界効果トランジスタを用いて、A01小川グループから提供される単一分子磁石をチャンネル部分に吸着させ、外部磁場を制御することで変動する伝導特性の検出を行い、原子レベルで明らかにしたメカニズムをデバイスレベルで実証することを目指す。
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