研究領域 | 分子アーキテクトニクス:単一分子の組織化と新機能創成 |
研究課題/領域番号 |
25110010
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 修司 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00228446)
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研究分担者 |
高山 あかり 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70722338)
秋山 了太 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40633962)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 分子電気伝導 / 多探針走査トンネル顕微鏡 / スピン伝導 |
研究実績の概要 |
(1) 4探針型STMを用いた有機分子の電気伝導測定:我々は4探針型STMを用いて、各種有機分子膜の電気伝導率の測定を試みている。本年度はグラフィジン、Fe/Coテルピリジンなど十数種類の測定を行った。どの物質も、バンド計算などでは伝導性が大いに期待される試料であったが、実際に伝導性を持つ試料はわずかに二つだけであった。大阪大学家研究室提供の「Auナノ粒子/チオフェンコンポジット」では、分子伝導でよく見られる高抵抗・非線形性が確認された。化学専攻西原研究室提供のPtジチオレンでは電子線照射時間に依存して伝導度が増大する現象が見られた。 (2)2層グラフェン(BLG)における超伝導の観測: BLGに超高真空中でLiや Caをインターカレートし、in situ低温電気伝導測定を行った。SiC(0001)面上成長させたBLGにLiを室温蒸着するとグラフェン層間にLi原子がインターカレートされる(Li-BLG)。さらに、Li-BLGを150℃に加熱しながらCaを蒸着するとLiとCaが置換し、Caがインターカレートする(Ca-BLG)。Li-BLGが弱局在的な傾向を示して超伝導に転移しなかったのに対して、Ca-BLGは約2 Kで超伝導転移を示した。この結果はBLGにおける初の超伝導観測であり、BLGにおいても層間電子状態と超伝導が密接に関連することを意味している。 (3) SiC上のBLGにおける電子局在: SiC結晶表面上に成長させたBLGの電気伝導に関与する散乱において弾性的なバレー内散乱の寄与が最も大きいことが判明した。このバレー内散乱は波数空間をわずかに移動する散乱であるため、その起源はSiC基板中のイオン化したドーパントによる散乱と考えられる。また、このBLGにLiをインターカレートして電気伝導測定を行った結果、Liからの電子ドープによる電気伝導度の増加を観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いままで各種の有機分子膜の電気伝導を4探針STM装置を用いて測定してきたが、2、3の例を除いて、ほとんど絶縁体であった。しかし、それでも、研究実績の概要で述べたように、導電性を示すものは極めて少ないながら存在するので、それらを見出した成果は評価できると考えている。 また、昨年まで製作を続けてきた磁性体コーティング・カーボンナノチューブ探針は極めて壊れやすく、また特性が安定しない。そのため、別のアプローチを開始した。つまり、東京大学大規模集積システム設計教育研究センター(VDEC)の微細加工設備を用いて、磁性体膜の積層構造を作り、それをパターニングした後へき開してプローブとする。プローブ先端にスピン拡散長よりも短い間隔での接合を作ることが技術的に困難であったが、本年度はその設計および製作技術検証を終え、試作プローブが完成した。来年度はこれを用いて実際にスピン流の生成と測定を行い、スピン注入プローブとしての機能の実証を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)大阪大学家研究室から提供を受けた金ナノ粒子/チオフェン複合分子の伝導性の4探針STM測定を今年度試みたが、導電性が全く無かったので、試料調整条件などを変えた試料で再トライし、導電性を確認したい。 (2)東京大学西原研究室から提供を受けている各種分子性薄膜片の導電性を4探針STMで測定したが、ほとんどが絶縁体的であったので、試料調整条件などを変えた試料で再トライして、導電性を確認したい。 (3)今年度、2層グラフェンにCaをインターカレートすると超伝導を示すことを発見したが、単層グラフェンに水素や各種金属を吸着させて、バッファー層との間に金属原子をインターカレートするなどして、単層グラフェンを超伝導化することを試みる。
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