研究領域 | 分子アーキテクトニクス:単一分子の組織化と新機能創成 |
研究課題/領域番号 |
25110011
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山田 豊和 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 特任准教授 (10383548)
|
研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
|
キーワード | マイクロ・ナノデバイス / 走査プローブ顕微鏡 / ナノ材料 / 原子・分子物理 / 表面・界面物性 |
研究概要 |
「スピン偏極STMによる単一分子の磁気伝導特性の解明」を目指して、自作した300Kと4Kの2台の超高真空・スピン偏極STM(走査トンネル顕微鏡)を用いて研究を進めてきている。 2013年度、単一フタロシアニン(Pc)有機分子を絶縁膜、貴金属、磁性金属という異なる電極に吸着し、その電子状態を正確に測定することに成功した。これまで電極による分子の電子状態への影響は小さいと考えられてきたが、単一有機分子を介する伝導は、分子そのものよりも2つの電極/分子界面の効果がより支配的である事が分かった。 さらに、この研究を進める過程で面白いことが分かってきた。単一有機分子接合による精密な電子スピン伝導測定は、これまで極低温でしか成功していなかった。温度上昇に伴い分子が拡散するためである。しかし、理論と実験による研究から、鉄(001)面を電極とすれば室温でも単一Pc分子は熱拡散しなくなることを実証した。Pc分子のLUMOが、エネルギー的に近い位置にある鉄(001)の電子状態と強く結合し、貴金属に比べ分子はFe(001)電極に強く吸着し、さらに非常に高い拡散エネルギー障壁が生じることにより室温でも熱拡散しなくなる事が明らかとなった。室温・単一有機分子磁気接合の実現への手掛かりを掴んだ。 また、Pc分子はスピン偏極していない。一方、Fe(001)電子状態は少数スピンが支配的である。そのため、Fe (001)の少数スピンは分子の少数スピンと結合し新たな混成少数スピン電子状態を形成する(状態位置シフト)。一方、鉄(001)には多数スピンがほとんどないため、分子の多数スピンは影響を受けない。結果として、Fe(001)/分子界面にスピン偏極電子状態が発現することが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初の目的では、2013年度に、高純度の鉄ウィスカ単結晶にフタロシアニン分子やポルフィリン分子を吸着し、その電子スピン伝導測定を行うことを目指した。研究計画通り、Fe(001)ウィスカ表面の清浄化と平坦化を行い、原子レベルで平坦な表面を得た。これに今回はメタルフリーなフタロシアニン単一有機分子を吸着し測定を行った。当初、磁性イオンを含むフタロシアニン分子や、ポルフィリン分子の吸着および電子分光測定も行う予定であった。しかし、分子量や大きさもほぼ同じような分子であっても、分子を単一分子として基板にうまく吸着するように制御することが非常に困難であった。例えば、H2Pcの代わりにFePcを坩堝に入れ、超高真空中で加熱し昇華させようとした。しかし、H2Pcで使用した昇華温度や基板への蒸着時間では、うまくFePcを基板に吸着できなかった。分子の僅かな違いが、昇華条件に大きく影響してしまう。これを改善しなければ、様々な分子の伝導測定は困難である。そこで、坩堝からの分子の昇華スピードと温度との相関を、水晶振動子を用いて明確にする。
|
今後の研究の推進方策 |
2014年度、さらに3台目の極低温・高磁場STM装置を作成しつつ研究を進展させる。 Fe (001)フェルミ準位近傍には少数スピンしかなかったため、スピン偏極の無い分子少数スピン状態は強く混成し新たなエネルギー位置にシフトした。分子の多数スピン状態は影響を受けず、分子の少数スピンと多数スピンはスピン分極した。この成果は、今後の有機分子磁気接合を設計していくうえで非常に重要なことを示す。分子の電子状態とエネルギー的に近い位置に高いスピン偏極電子状態を有する磁性電極を選択することで、人工的に少数または多数スピン状態をシフトさせ、高いスピン偏極を有する単一有機分子磁気接合を開発できる。うまくすれば、ハーフメタルのような100%スピン偏極分子磁気接合が作成できる可能性がある。 メタルフリーな単一フタロシアニン有機分子を用いて研究を行ってきたが、新たに磁性イオン含有単一フタロシアニン有機分子およびポルフィリン系分子を用いて研究を展開する。そのため、水晶振動子と坩堝温度との相関関係から、単一分子の基板上にうまく吸着させるための最適条件の導出を行う。 また、より高いスピン偏極電子状態を有する基板が望ましい。理想的な基板として、トンネル磁気抵抗素子にも使用されているFe(001)/MgO(001)がある。通常、バルクのMgO単結晶を使用すると表面が荒れ、原子レベルで平坦な基板とはならない。しかし、Ag(001)基板上に2-3原子層分つけたMgO膜は原子レベルで平坦となる。この上に鉄を吸着することで、スピン偏極度100%に近い理想的な膜ができる。この表面に有機分子を吸着しさらなる高機能・単一有機分子磁気素子の開発を進める。
|