研究領域 | 分子アーキテクトニクス:単一分子の組織化と新機能創成 |
研究課題/領域番号 |
25110014
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 卓也 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50229556)
|
研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
|
キーワード | 分子エレクトロニクス / 脳型デバイス / クーロンブロッケード |
研究実績の概要 |
これまでの研究で、酸化還元準位が0.5V異なるシトクロムcとシトクロムc3で、タンパク質/DNAネットワークの電気伝導特性が、ほぼ同じであることが判明した。このことから、タンパク質の酸化還元準位は、タンパク質/DNAネットワークの電気伝導に直接的には関与していないことがわかった。 本年度は、タンパク質/DNAネットワークにおいて、タンパク質の電子状態とDNAの電子状態がどのように関連しているのか、あるいは関係がないのか、明らかにする実験を行った。DNA側の電子状態を変化させて、タンパク質/DNAネットワークの電気特性が変化するかどうかについて調べた。DNAの塩基のうち、グアニン(G)とシトシン(C)の塩基対はアデニン(A)とチミン(T)に比べて、より低いエネルギーを持つことが知られている。そこで、GCのみから構成されている(poly dG)(poly dC)とATのみを含む(poly dA)(poly dT)をそれぞれシトクロムcと混ぜてネットワークを形成して、電流-電圧特性を調べた。これまでと同様に、タンパク質/DNAネットワークの電気伝導特性は、クーロンブロケードネットワークモデルにほぼ完全に一致し、両者とも電荷エネルギーは10meV程度と差がなかった。このことから、核酸塩基の持つ電子状態は、タンパク質/DNAネットワークの電気伝導に影響していないと言える。 一方、クーロンブロケードネットワークの解析で、ネットワークの次元性を示すパラメータには、明確な差が現れた。GCのほうがATよりも、電流-電圧特性の閾値における立ち上がりが急で、ネットワークがより3次元的になっていることがわかった。GCは塩基対の構造的要因により、ATよりもねじれやすいことが知られている。以上の結果から、DNAは電子的には伝導に関与しないが、タンパク質の配列にのみ影響を与えていると結論した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子アーキテクトニクスの考え方に基づき、多数の分子が協奏的に働く分子デバイスの構築に向けた研究を展開してきた。タンパク質/DNAネットワークにおいて、確率共鳴現象の検出に成功してきたが、これを用いたデバイス動作を実現するためには、電流量の増大と機能分子の組み込み必要である。タンパク質/DNAネットワークの電気特性を支配する要因を明らかにすることで、デバイス構築への道筋について検討してきた。その結果、当初想定したタンパク質の酸化還元の寄与はなく、未知の電子トラップサイトが存在すること、その電荷エネルギーが10meV程度であることなど、物性化学的な見地から興味深い結果を得た。しかし、これらの結果は、基礎的な重要性は大きいが、脳型デバイス構築への寄与は小さい。そこで、今後、学術的な観点から、電子トラップサイトの解明を行うとともに、思い切った分子系の転換などを平行して行う必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で明らかになった、タンパク質/DNAネットワークで現れた10meVの電子トラップサイトの本質を明らかにする。DNAの核酸塩基の電子状態は関与しないと見られることから、DNAのリン酸基に着目して進める。 一方、タンパク質/DNAネットワークでは、電流量が小さく、情報処理デバイスとして機能さえることは難しい。そこで、新しい系として、金属微粒子間に色素分子を導入したネットワークについて、研究を進める。
|