研究領域 | 分子アーキテクトニクス:単一分子の組織化と新機能創成 |
研究課題/領域番号 |
25110014
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 卓也 大阪大学, 理学研究科, 教授 (50229556)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 分子エレクトロニクス / 分子ネットワーク / 確率共鳴 / クーロンブロッケード |
研究実績の概要 |
これまで、タンパク質/DNAネットワークがクーロンブロッケード伝導を示すことを明らかにしてきたが、DNA塩基の電子状態は直接かかわっていないことが明らかになった。また、これまで使用してきた金属タンパクのかわりに、酸化還元サイトのないタンパク質でも同様の結果が得られ、タンパク質の酸化還元も関係していないことが明らかになった。そこで、平成28年は、DNAを用いず、かつ酸化還元サイトをもたないタンパク質のみの薄膜を作製し、ナノギャップ電極による電気特性の測定を行った。その結果、リゾチーム単体の薄膜でも、ほぼ同じクーロンブロッケード伝導が観測された。しかし、DNAのみでは、クーロンブロッケード型の電気特性は観測されない。従って、タンパク質分子の持つ何等かの要素が、クーロンブロッケード伝導を支える電子のトラップサイトとなっていると考えられる。また、簡単な静電容量モデルによるホッピング長の見積をおこなったところ、タンパク質一分子の直径よりも短い距離であることが明らかになった。従って、タンパク質1分子内に複数の電子トラップサイトがあることが推察された。 一方、タンパク質/DNAネットワークでは、複数電極を駆動できる電極間距離では、観測可能な大きさの電流が得られないことが明白になってきたので、新たに金微粒子をハブとするランダム二次元ネットワークの構築と特性計測に着手した。金微粒子は、先行研究を参考に、熱蒸着による薄膜成長初期過程を利用した手法で形成した。この方法は、金微粒子表面に界面活性剤がないので、金微粒子と分子間の電気的接触が非常に良い。金微粒子ネットワークの上に、微量のポリアニリン分子を配置した。ポリアニリンが大量にあるときには、系全体の伝導はポリアニリン分子膜そのものである。しかし、ポリアニリン分子が少量のときには、非線形かつ整流性のある特性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
28年度の目的は、クーロンブロッケードネットワーク伝導の本質の追及であるが、局在準位を担い手がタンパク質のペプチド鎖そのものであることが明らかになった。DNAの役割は、タンパク質をつなぎとめるバインダーとしての役割、さらに、タンパク質が与える局在準位の空間的次元性の制御に利用かのうであることが明らかになった。従って、28年度の目的は十分に達成されているといえる。 以上のように、クーロンブロッケードネットワークの本質は明らかになってきたが、反面、複数電極を有する論理デバイスへの応用が難しいことがはっきりしてきた。そこで、新たに分子/金微粒子ネットワークデバイスの構築を開始した。すでに非線形性を示す電気特性の観測に成功しているので、当初の計画以上に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
クーロンブロッケードネットワークの局在準位がタンパク質のペプチド鎖そのものにあることは、前年までの研究で明らかになったが、その化学的、分子論的な起源は、まだ明らかでない。そこで、29年度は、DNA鎖に強固に結合するアミン基を有する小分子を用いて、ペプチド鎖の分子的特徴を部分的に形成し、どの官能基が局在準位に関わているのか明らかにする。 一方、28年度からスタートした分子/金微粒子ネットワークデバイスについて、複数電極を用いた入力/出力を行い、論理演算を目指した実験を行う。分子には、Ru錯体など、明確な非線形特性を示すものを選択し、確率共鳴現象を利用した、確率共鳴的演算を目指す。このような演算は、確率の重ね合わせを振幅に変換するものであり、脳回路の働きを模倣するものである。
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