計画研究
本年度においては発がんと体細胞のリプログラミングに重要とされているc-MycとN-Myc遺伝子の役割の解析を行った。c-MycとN-Mycの遺伝子を欠損したノックアウトマウスの作成を行ったところ、それぞれの片方の遺伝子を欠損した場合には特に異常は見られなかった。しかし、c-MycとN-Mycの両方を同時に欠損させたマウスにおいては精子幹細胞の自己複製分裂が著しく低下することが明らかになった。自己複製分裂の低下は試験管内のみならず生体内においても継代移植で確認された。自己複製分裂の低下の原因を調べたところ、グルーコース代謝の異常が見つかり、c-Myc/N-mycを欠損した精子幹細胞は解糖系が低下していることが明らかとなった。この解糖系の異常を克服する分子をスクリーニングした結果、PS48という体細胞からのinduced pluripotent stem (iPS)細胞の樹立を亢進させることが報告されている小分子化合物がPdkp1遺伝子のリン酸化を介してc-Myc/N-Mycの発現を促進することで精子幹細胞の自己複製を亢進させることを明らかにした。培養精子幹細胞であるGermline stem (GS)細胞は従来DBA/2から樹立されてきたが、C57/BL6においてはその樹立は困難であった。そこでDBA/2とB6系統のマウスの生殖細胞における解糖系の活性を調べてみたところ、DBA/2の系統においてはより強く解糖系の活性化が見られることがわかった。この結果は解糖系の活性化レベルがGS細胞の樹立と関連があることを示していたために、PS48を用いてC57BL/6の精巣細胞を培養したところ、予想通りGS細胞の培養が可能となった。これらの成果はMycが精子幹細胞のがん化に関与するのみならず、生理的な状態では解糖系の促進に働くことで精子幹細胞の自己複製を制御していることを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
Myc、Mycnのノックアウトマウスの解析はマウスに表現型がなかったために困難であった。しかしながら、二重に遺伝子をノックアウトすると明快な症状をしめしため、順調に成果をまとめることができた。
本年度は、PS48が精子幹細胞のリプログラミングに働く作用を持つか否かを検討する。昨年度までの実験でDmrt1とp53遺伝子を同時にノックダウンしたGS細胞からは多能性幹細胞であるmultipotent GS細胞が樹立できるという実験系を確立してある。この実験系においてPS48もしくはMyc遺伝子を導入することで解糖系の刺激を亢進させることで、どの程度解糖系がGS細胞のリプログラミングに影響するのかを明らかにする。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 1件)
Biol. Reprod.
巻: 96 ページ: 221-231
https://doi.org/10.1095/biolreprod.116.143495
巻: 94 ページ: 112
doi: 10.1095/biolreprod.115.137869.
Genes Dev
巻: 30 ページ: 2637-2648
doi: 10.1101/gad.287045.116
Stem Cell Reports
巻: 7 ページ: 279-291
10.1016/j.stemcr.2016.07.005.
Dev. Cell
巻: 38 ページ: 248-261
10.1016/j.devcel.2016.07.011.