計画研究
Piwi-piRNA複合体が標的とするトランスポゾン領域においてリンカーヒストンH1の密度を正に制御することを見出していたが、平成28年度は更にその分子機構に迫るため、H3K9me3との関連を検討した。その結果、H1をノックダウンしてもH3K9me3の密度が変動しないことを見出した。すなわち、H1とH3K9me3の密度は独立に制御されていることがわかった。さらに、H3K9me3と相互作用するHP1aのノックダウンを行い、H1の密度をChIP-seq解析で検討した結果、HP1aのノックダウン下でトランスポゾンの発現上昇が引き起こされたにも関わらず、H1の密度に変動は認められなかった。また、H1とHP1aを同時にノックダウンした場合、単独でノックダウンするのに比べて、相乗的にトランスポゾンの脱抑制が引き起こされることがわかった。以上の結果は、Piwi-piRNA複合体はH1とH3K9me3双方を標的トランスポゾン上に誘導するものの、H1とH3K9me3はそれぞれ独立してトランスポゾンの発現抑制に機能することを示している。さらに、二つのクロマチン関連因子がどのようにクロマチン凝集構造に関与するのかその意義を深く理解するため、ATAC-seq法を駆使し解析した。Piwiを培養細胞OSCでノックダウンすると、ATAC-seqのRead数が標的トランスポゾンの転写開始点付近で減少することを見出した。以上のことからPiwiは転写開始点付近のクロマチン凝集構造を制御することが明確となった。さらに、H1やHP1aのノックダウンも行い、同様の結果が得られた。すなわち、Piwiはクロマチン凝集を促す因子であり、それはH1やHP1aを介して起こることが明確となった。これらの成果をまとめ、論文をMolecular Cell誌において発表するに至った。
2: おおむね順調に進展している
計画通り論文掲載に至ったので、おおむね順調に進展していると判断している。
H3K9me3やリンカーヒストンH1がクロマチンの動態にどう影響するのか分子レベルで解析する必要がある。どちらもクロマチンの凝集を促す因子として働くが、作用点が異なると考えられる。そのため人工的にヌクレオソーム構造を構築し、H3K9me3存在下とH1の存在下で凝集クロマチン構造にどのような違いが生じるかを構造科学的に解析したい。このようにH1に関する研究を生化学的に進めるとともに、他のクロマチン制御因子、例えばMaelstromやDmGTSF1についても解析を進める。例えば、DmGTSF1については2013年にトランスポゾン抑制因子の一つとして同定したものの、その分子的役割については答えが得られていない。そこで、モノクローナル抗体を新たに作製し、どのような分子と相互作用しているか免疫沈降法と質量分析などを駆使して解析し、トランスポゾン抑制に至る分子基盤を明らかにする予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Molecular Cell
巻: 63 ページ: 408-419
10.1016/j.molcel.2016.06.008.
Developmental Cell
巻: 37 ページ: 226-237
10.1016/j.devcel.2016.04.009.