計画研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
受精卵から8細胞期頃までの細胞は、胎仔と胎盤の両方に分化できる「全能性」細胞であり、胎仔のみに分化できるES/iPS細胞の「多能性」を凌ぐ能力を有している。しかし、初期の着床前胚は、自己複製能を持つ幹細胞ではないためにその利用は限定されている。受精卵の全能性は、精子と卵子に刷り込まれたエピゲノム情報がリプログラミングされることにより再獲得される。本研究では、受精後のリプログラミング機構の解明を行うとともに、全能性細胞を可視化する実験系を構築することを目的とする。平成25年度は、能動的DNA脱メチル化への関与が示唆されているAIDが受精後の能動的DNA脱メチル化に及ぼす影響と転写の活性化に関与する新規ヒストン修飾 (ヒストンH2Bの112番目のセリンのGlcNAc化;H2B S112GlcNAc) が胚性遺伝子の活性化に及ぼす影響について検討した。その結果、AIDノックアウトマウスから得られた受精卵においても、能動的DNA脱メチル化に異常が認められないことが明らかとなった。また、H2B S112GlcNAc修飾は、受精卵の雄性クロマチンで特異的に認められることを明らかにした。さらに、N-アセチルグルコサミン転移酵素であるOGTは、受精卵の雄性クロマチンと結合するTet3と結合することがわかった。これらのことから、OGTはTet3により雄性クロマチンにリクルートされている可能性が示唆された。H2B S112GlcNAcは、ES細胞において転写の活性化に関与する修飾であることが示されており、受精卵では胚性遺伝子の活性化に機能している可能性が高いと考えられる。平成26年度は、この点について明らかにしていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、平成25年度の交付申請書の研究計画に記載したほぼ全ての実験を実行することができた。また、受精卵の雄性クロマチンに特異的に存在するヒストン修飾を見出したこと、これまでに雄性クロマチンに特異的なヒストン修飾は知られていないことから、雄性クロマチンが特異的に修飾を受けるメカニズムを示唆できたこと、からこの発見の意義は大きく、胚性遺伝子の活性化機構の研究に新たな展開をもたらすことが期待できる。これらのことから、本研究は「おおむね順調に進展」と考えられる。
申請者らは、受精卵にH2B S112Aを発現させることにより、雄性クロマチンからH2B S112GlcNAcを消去できるという予備的な結果を得ている。そこで、平成26年度は、雄性クロマチンからH2B S112GlcNAcを消去した受精卵が正常に発生するかどうかを検討する。また、Tet3をノックダウンした受精卵を作製し、OGTと雄性クロマチンの結合状態やH2B S112GlcNAcに変化があるかどうかを検討する。さらに、H2B S112GlcNAcを消去した受精卵、Tet3をノックダウンした受精卵、およびOGTをノックダウンした受精卵において胚性遺伝子の活性化に異常があるかどうかを検討する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Biology of Reproduction
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http://www.nagahama-i-bio.ac.jp/news/news/2013/04/post_233.html