計画研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本研究では、核移植クローン技術や顕微授精技術など特殊胚を作出する技術を利用して、哺乳類の生殖サイクルにおける重要なエピジェネティクス転換期(受精、着床、生殖細胞分化)の制御機構を明らかにする。25年度は、以下の2つの解析を進めた。1.円形精子細胞を用いた受精における能動的DNA脱メチル化機構: 受精直後から精子由来の雄性前核は能動的DNA脱メチル化を受けることが明らかにされている。そこで、円形精子細胞を用いた顕微授精を行い、果たして正常に脱メチル化されるかどうか解析した。対照は同じタイミングで実施した精子を用いた顕微授精胚とした。その結果、受精後早期においてはいずれの顕微授精胚も、メチル化(5mC)とヒドロキシメチル化(5hmC)の比率が雌雄前核で差が見られなかった。しかし6時間以降、精子由来受精卵ではほぼすべての例において雄性前核における5mCの低下と5hmCの上昇が見られたのに対し、円形精子細胞由来では、ほぼ半数の例にとどまった。円形精子細胞を用いた顕微授精の低出産率との関連で興味深い。2.着床後の胎盤形成における正常な層構造の形成機構: マウス体細胞クローン胚では、胎盤の層構造が乱れ、過形成を呈することが知られている。そこで、層構造が乱れる直前の11.5日胎盤におけるmRNAおよびマイクロRNAのマイクロアレイ解析を行った。その結果、正常対照との差次的マイクロRNA発現は、ほとんどが2カ所の刷込み遺伝子領域に絞られることが明らかになった。その下流の遺伝子群と差次的mRNAとの共通遺伝子も絞り込むことができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、受精、着床、生殖細胞分化という哺乳類のライフサイクルにおける大きなエピジェネティクス転換期における機構を解明しようとするものである。通常の方法は、正常な受精胚を用いて生化学およびゲノム解析技術を動員するものであるが、本研究は、核移植胚や顕微授精胚という特殊胚を材料として解析をしようとしている。すなわち、正常な生物現象を理解するために、病理学をモデルとして解析する手法と同じである。初年度である25年度は、受精時の能動的DNA脱メチル化機構の解明に、円形精子細胞を用いた顕微授精胚を、そして胎盤層構造の形成機構解明には、体細胞クローン胎盤を用いる、というモデル実験を実施した。その結果、それぞれについてポジティブなデータが得られ、本実験モデルの選択が正しかったことが示された。いずれのデータも、これまでの報告とは異なる、あるいは全く新規のデータであり、新たな機構の解明の端緒になると期待される。以上から、おおむね順調に進展していると判断した。
1.25年度で明らかにした、円形精子細胞を用いた受精における能動的DNA脱メチル化機構の解析については、能動的DNA脱メチル化を制御しているといわれているTet3(tet methylcytosine dioxygenase 3)との関連の解析を進める。すなわち、5mC が低下しない雄性前核には、果たしてTet3が働いているのか、もし働いていないのなら、その原因は何かについて解明をしていく。すでの我々の研究室では、雄性前核においてTet3に関連する因子を明らかにしているので、それらの局在や結合も解析をしていく。2.やはり25年度に明らかにした着床後の胎盤形成における正常な層構造の形成機構については、体細胞クローン胎盤を用いて、正常対照との差次的マイクロRNA発現およびその下流の遺伝子群と差次的mRNAとの共通遺伝子も絞り込むことができた。そこで、同様の表現型(胎盤の層構造の乱れおよび過形成)を呈するノックアウトマウス胎盤を解析し、その共通したmRNAおよびマイクロRNAの発現異常を同定し、この異常を引き起こすカスケードの全貌を明らかにしたい。3.さらに、着床前のヒストンメチル化修飾の変化の機構を明らかにするために、ヒストンバリアントに着目して解析を実施する。すでにヒストンバリアントの変換を阻止するためのノックダウン実験に成功している。その詳細な表現型および関与する遺伝子の同定を進める予定である。
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