計画研究
本研究では、核移植クローン技術や顕微授精技術など特殊胚を作出する技術を利用して、哺乳類の生殖サイクルにおける重要なエピジェネティクス転換期(受精、着床、生殖細胞分化)の制御機構を明らかにする。25年度は、以下の2つの解析を進めた。1.円形精子細胞を用いた受精における能動的DNA脱メチル化機構: 受精直後から精子由来の雄性前核は能動的DNA脱メチル化を受けることが明らかにされている。昨年度までに、円形精子細胞を用いた顕微授精では、ほぼ半数の例のみで雄性前核ゲノムの脱メチル化が進行することを明らかにした。そこで、DNAメチル化状態を蛍光タンパク質で可視化し、ライブイメージング技術を用いることにより、DNA脱メチル化が正常に進行した胚と異常な胚を区別し、胚移植を行ったところ、異常な胚で効率に発生遅延が生じることを明らかにした。この現象は、精子細胞のヒストンの卵子ヒストンへの置換が遅れていることに原因があった。2.着床後の胎盤形成における正常な層構造の形成機構: マウス体細胞クローン胚では、胎盤の層構造が乱れ、過形成を呈することが知られている。昨年度までに、2カ所の刷込み遺伝子領域に差次的な遺伝子発現が生じていることを明らかにした。これらの刷込み遺伝子は、体細胞クローンにおいて両アレル発現をしていることが知られているので、その発現を正常化するためにCRISPR/Cas9 システムを用いて、片側アレルを欠損させたマウスの体細胞を用いて核移植クローンを実施した。その結果、胎盤重量および組織像の異常の軽減が見られた。今後、複数の遺伝子の関与の可能性も検討し、原因を詰めていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、受精、着床、生殖細胞分化という哺乳類のライフサイクルにおける大きなエピジェネティクス転換期における機構を解明しようとするものである。通常の方法は、正常な受精胚を用いて生化学およびゲノム解析技術を動員するものであるが、本研究は、核移植胚や顕微授精胚という特殊な胚を材料として解析をする。これまでに、円形精子細胞を用いた顕微授精における能動的脱メチル化の異常、および胎盤層構造の形成機構解明に有意なデータを得ることに成功している。また、核移植胚や顕微授精胚ではなく、正常胚を用いた解析であるが、能動的脱メチル化に関わる Tet3 タンパク質を標的部位にリクルートする機構も解明しつつある。さらに、着床前胚におけるヒストンシャペロンの胚発生への役割も明らかにした。以上から、おおむね順調に進展していると考えられる。
昨年度までに、円形精子細胞由来の受精卵におけるDNA脱メチル化異常についての解析は終了した。体細胞クローン胚の胎盤異常は、今後も解析を継続する。また、新たに、受精卵における能動的脱メチル化に関わる因子の同定に成功しつつある。この研究を進める予定である。さらに、着床前胚におけるヒストンシャペロンの役割についても興味深いデータが得られており、その発生学上の意義について明らかにしていく予定である。このようにして、受精から着床・妊娠期までの発生におけるエピゲノム変化のダイナミクスの一端を明らかにしていく。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (6件) (うちオープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 5件、 査読あり 4件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
Experimental Animals
巻: 64 ページ: 31-37
10.1538/expanim.14-0034
Biology of Reproduction
巻: 92 ページ: 81, 1-11
10.1095/biolreprod.114.123455
Human Reproduction
巻: 30 ページ: 1178-1187
10.1093/humrep/dev039
Journal of Reproduction and Development
巻: 60 ページ: 187-193
巻: 91 ページ: 120, 1-12
10.1095/biolreprod.114.120451
PLoS One
巻: 9 ページ: e114305
10.1371/journal.pone.0114305