研究領域 | 生殖細胞のエピゲノムダイナミクスとその制御 |
研究課題/領域番号 |
25112009
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小倉 淳郎 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソースセンター, 室長 (20194524)
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研究分担者 |
幸田 尚 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (60211893)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 核移植 / エピジェネティクス / 生殖細胞 / 受精 / 着床 |
研究実績の概要 |
本研究では、核移植クローン技術や顕微授精技術など特殊胚を作出する技術を利用して、哺乳類の生殖サイクルにおける重要なエピジェネティクス転換期(受精、着床、生殖細胞分化)の制御機構を明らかにする。27年度は、以下の2つの解析を進めた。 1.哺乳類の着床前胚のゲノムは、桑実期から胚盤胞期、すなわち着床直前において、きわめて特徴的な 低DNAメチル化状態となる。そこで、マウスをモデルに用いて、低メチル化状態にある桑実期胚-胚盤胞においてレトロトランスポゾンが抑制される機構を解析した。マウス着床前胚においてヒストンシャペロン CAF-1 をノックダウンすると、胚が発生停止する。この原因として、LINE-1、SINE-B2、そしてIAPが異所性に発現し、胚にダメージを与えていることを明らかにした。さらに、ヒストンバリアントあるいはヒストン修飾に対する特異抗体を用いたChIP解析により、CAF-1がヒストンバリアントH3.1-H4とともに抑制性ヒストン(H3K9me3およびH4K20me3)を付加し、それがレトロトランスポゾンの発現を抑えていることがわかった。 2.胎仔側組織に寄与しうる胚性幹細胞(ES細胞)に対して、胎盤組織に寄与する栄養膜幹細胞(trophoblast stem cell、TS細胞)が胚体外細胞系列から樹立できることが知られている。しかし、ES細胞に比べ、その幹細胞としての均質性が低いことが欠点である。そこで、TS細胞株を構成するコロニーあるいは細胞タイプを分類し、その特性を明らかにした。その結果、type 1 と名付けたドーム型のコロニーが最も未分化であり、そこに含まれる小型の不定形、偽足を有する細胞が幹細胞としての特性を維持していることを明らかにした。また、胚体外組織のマーカーのうち、Cdx2よりもElf5 がより未分化性のマーカーとして優れていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、受精、着床、生殖細胞分化という哺乳類のライフサイクルにおける大きなエピジェネティクス転換期における機構を解明しようとするものである。核移植胚や顕微授精胚という特殊な胚を材料として、これまでに、円形精子細胞を用いた顕微授精における能動的脱メチル化の異常に有意なデータを得ることに成功するとともに、正常胚を用いて、能動的脱メチル化に関わる Tet3 タンパク質を標的部位にリクルートする機構も解明、そして着床前胚におけるヒストンシャペロンの胚発生への役割も明らかにした。また、長年の謎であるクローン胎盤の異常については、1つの遺伝子の発現正常化で、クローン胎盤の層構造の形成が正常に近くなった。さらに、初めてTS細胞の非均質性の特性解析も行った。以上から、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
円形精子細胞由来の受精卵におけるDNA脱メチル化異常についての解析は終了した。体細胞クローン胚の胎盤異常は、長年のテーマであり、今後も解析を継続する。現在、クローン胎盤に見られる胎盤特異的刷込み遺伝子のloss of imprinting に由来する過剰発現に絞って研究を進めている。すでに1つの遺伝子はCRISPR/Cas9によりノックアウトマウスの作出に成功し、クローン胎盤において発現を正常化させている。今後、残りの遺伝子のノックアウトマウスも作出し、解析に用いる。受精卵における能動的脱メチル化に関わる因子の同定に成功しつつあり、論文投稿後のコメントに対応中である。また、TS細胞については、核移植由来の株にも解析を広めて、この細胞の特性解析を進める予定である。また、28年度からは、129マウス系統のゲノム可塑性についても課題に含める。このようにして、受精から着床・妊娠期までの発生におけるエピゲノム変化のダイナミクスの一端を明らかにしていく。
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