計画研究
本研究では、核移植クローン技術や顕微授精技術など特殊胚を作出する技術を利用して、哺乳類の生殖サイクルにおける重要なエピジェネティクス転換期(受精、着床、生殖細胞分化)の制御機構を明らかにする。28年度は、以下の解析を進めた。エピジェネティクス異常表現型として過形成を生じるマウス体細胞クローンの胎盤を解析した。これらの胎盤では、胎盤特異的刷込み遺伝子(父方発現)である Slc39a4、Gab1、Sfmbt2の3遺伝子の刷込みが消去(loss of imprinting; LOI)されていることを明らかにした。これらのLOI は、クローン由来 trophoblast stem cellでも確認された。また、Sfmbt2のイントロン内には、マイクロRNA(miRNA)クラスターが存在しており、これらのmiRNAもクローン胎盤で過剰発現していることを確認した。このクラスターを父方欠失した胎盤の解析により、これらのmiRNAも父方発現であること、抗腫瘍あるいはアポトーシス遺伝子を抑制して胎盤の成長を促進していることを明らかにした。そこで、miRNAクラスターの母方のノックアウト体細胞を用いて核移植クローンを行ったところ、重量が正常化胎盤が得られた。さらに、Gab1との母方ダブルノックアウトとすることで、さらに正常化が進んだ。よって、少なくとも本miRNAクラスターとGab1の過剰発現(biallelic expression)が、クローン胎盤過形成の原因の1つであることを明らかにした。一方、28年度中に、Slc38a4 ノックアウトマウスの作成にも成功しており、やはり胎盤の発生に影響が出ることを明らかにしている。この遺伝子も胎盤の過形成に関係している可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、受精、着床、生殖細胞分化という哺乳類のライフサイクルにおける大きなエピジェネティクス転換期における機構を解明しようとするものである。通常の方法は、正常な受精胚を用いて生化学およびゲノム解析技術を動員するものであるが、本研究では、核移植胚や顕微授精胚という特殊な胚を材料とする。28年度までに、核移植胚の着床前胚および胎盤の形成異常の原因をエピジェネティクスの観点から明らかにできた。また、顕微授精胚では、未成熟精子である円形精子細胞由来胚の発生異常が、円形精子細胞のヒストン置換の不全であることを示すことができた。現在、その結果である胚そのものの遺伝子発現の解析を開始するところである。さらに、着床前のヒストンバリアントの置換によるレトロトランスポゾンの抑制機構も明らかにしている。以上より、受精、着床、胎盤形成という哺乳類の大きなエピジェネティクス転換における分子機構の一端を明らかにできた。よって、おおむね順調に進展していると考えられる。
受精時のエピジェネティクスでは、円形精子細胞由来の受精卵におけるDNA脱メチル化異常についての解析は終了したが、もう一つ手がけている精子ゲノム再プログラム化関連因子の研究がほぼ完了し、論文の revision を進めているところである。本研究課題のうちにこれは完了させたい。体細胞クローン胚の胎盤異常は、長年のテーマであり、今後も解析を継続する。これまでにダブルノックアウトによる胎盤異常の改善に成功したが、さらにトリプルノックアウトも目指す。また、TS細胞については、核移植由来の株の解析がほぼ終了したので、こちらも論文投稿中である。追加実験を入れながら、29年度中の accept を目指す。このようにして、残り1年の間に、受精から着床・妊娠期までの発生におけるエピゲノム変化のダイナミクスの一端を明らかにしていく。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 5件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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