本研究では、核移植クローン技術や顕微授精技術など特殊胚を作出する技術を利用して、哺乳類の生殖サイクルにおける重要なエピジェネティクス転換期(受精、着床、生殖細胞分化)の制御機構を明らかにする。29年度は、以下の解析を進めた。 昨年度までに、エピジェネティクス異常表現型として過形成を生じるマウス体細胞クローンの胎盤を解析し、胎盤特異的刷込み遺伝子(父方発現)である Slc38a4、Gab1、Sfmbt2の3遺伝子の刷込みが消去(loss of imprinting; LOI)されていることを明らかにした。また、Sfmbt2のイントロン内には、マイクロRNA(miRNA)クラスターが存在しており、これらもクローン胎盤で過剰発現していた。そこで、これらの遺伝子の発現を正常化するために、母方欠失ヘテロノックアウト個体を作出し、それぞれの体細胞でクローンを行なったところ、miRNAヘテロノックアウトにより有意に胎盤の形態と重量が正常化した。また、miRNA と Gab1のダブルヘテロノックアウトにより、さらに正常胎盤に近づいた。よって、これらの遺伝子のLOIがクローン胎盤の異常であることを確認した。 また、受精後のエピゲノム変化の解析については、卵子由来ヒストンバリアントH3.3の精子ゲノムへの取り込みにヒストンH3.3のメチル化(H3R17me2a)が必須であること、そしてその責任メチル化酵素Mettl23が水酸化酵素Tet3と相互作用し、雄性核ゲノムの能動的脱メチル化を制御していることを明らかにした。よって、Mettl23を新たな母性ゲノム再プログラム化因子として同定することができた。
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