計画研究
本研究はゲノムインプリンティングをモデルとして、哺乳類エピゲノムの生殖細胞形成過程におけるダイナミックな変化と受精後の安定維持機構を明らかにすることを目的とする。そのため、エピゲノム解析技術と発生工学技術を駆使した研究を行い、新学術領域の他メンバーの支援も実施している。平成27年度は、以下の進捗があった。(1)生殖細胞のエピゲノム変化の記述:新生仔期の精原幹細胞について、非CGメチル化、5hmCを同定した成果を国際誌に報告した(BMC Genomics 2015)(横浜市大・大保との共同研究);ES細胞から誘導した始原生殖細胞のメチル化が生体内のそれと酷似することを明らかにした(投稿中)(京大・斎藤との共同研究);精巣内のセルトリ細胞のトランスクリプトーム解析を行なった(徳島大・立花らとの共同研究)。(2)遺伝子ノックアウト生殖細胞・胚の解析:Dnmt欠損卵子を用いて、受精卵の5hmC蓄積は過剰なメチル化を除くためであることを国際誌に報告した(Nat. Cell Biol. 2016)(英国ICLとの共同研究); Uhrf1欠損卵子、及びそれに由来する胚のメチル化解析を行い、Uhrf1が卵子におけるde novoメチル化や受精後の維持メチル化に必須であることを見つけた(投稿準備中);G9a、Eset、Stella(長浜バイオ大・中村との共同研究)のノックアウトから卵子・初期胚を採取し、メチル化などのデータ取得を行った。これらの卵子や胚を観察するため、蛍光実体顕微鏡用の装置一式を購入した。(3)プロテオミクス解析により得た、Uhrf1により制御される卵子タンパク質について、GO解析、パスウェイ解析などによる制御系の推定を行った;X染色体不活性化を制御する遺伝子座のインプリンティング効果を発見した(Development 2015);ES細胞で高発現するZfp57が、インプリント遺伝子以外の単アレル発現遺伝子をメチル化非依存的に制御することを見つけた(投稿準備中)。
2: おおむね順調に進展している
交付申請時に記載した3つの項目について、それぞれ予定した計画を達成した。(1)については、新生仔期精巣の精原幹細胞に関する成果を論文として発表できたほか、すでにデータ解析を終えた幾つかの仕事について、論文の取りまとめに向けた作業が進んでいる。(2)については、以前から進めていた国際共同研究の成果を論文として発表したほか、他のノックアウトマウスについてもデータ取得と解析が順調に進んだ。(3)については、Uhrf1により制御される卵子タンパク質の候補の解析が進んだほか、Zfp57の予期せぬ働きが明らかになり、現在投稿に向けて準備が進んでいる。
(1)については、ES細胞から培養下で誘導した始原生殖細胞のエピゲノムのダイナミックな変化を論文として発表するとともに(京大・斎藤らとの共同研究)、長期培養下のGS(生殖幹)細胞のDNAメチル化変化を同定して結果をまとめる(領域内の京大・篠原らとの共同研究)。また、精巣内のセルトリ細胞及び生殖細胞のトランスクリプトームの詳細な解析を行なう(領域内の徳島大・立花らとの共同研究)。(2)については、実験を推進してデータの取得を継続し、予備的知見を得たものについては再現実験を行なう。G9a、Eset、Stella(理研真貝及び長浜バイオ大中村との共同研究)の欠損卵子、及びそれに由来する胚の採取を継続し、全ゲノムDNAメチル化やトランスクリプトームのデータ取得を進める。得られたデータをもとに、これらのエピジェネティクス制御因子がゲノムインプリンティングや胚発生に果たす役割を明らかにする。(3)はプロテオミクスや候補アプローチなどにより同定された、インプリントの確立または維持に関わる可能性のあるUhrf1とKRABフィンガーファミリーの解析を推進する。Zfp57を欠損するナイーブなES細胞の解析により、このタンパク質が単アレル発現遺伝子を制御する新たな機構が明らかになりつつあり、成果をまとめて発表する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
Nat. Cell Biol.
巻: 18 ページ: 225-233
10.1038/ncb3296
BMC Genomics
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Development
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ホルモンと臨床
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細胞工学
巻: 34 ページ: 852-856
生体の科学 (特集) 細胞シグナル操作法
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http://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/labo/epigenome/
http://reprod-epigenome.biken.osaka-u.ac.jp/