計画研究
本研究はゲノムインプリンティングをモデルとして、哺乳類の生殖細胞形成過程におけるエピゲノムの変化と受精後の維持機構を明らかにすることを目的とする。エピゲノム解析については、領域内の他メンバーの支援も行った。平成28年度は以下の進捗があった。(1)生殖細胞のエピゲノム変化の記述:ES細胞から誘導した始原生殖細胞及び精子幹細胞のDNAメチル化変化が、生体内のそれを再現することを報告した(Dev. Cell 2016;Cell Rep. 2016)(京大・斎藤との共同研究);長期培養下のGS(生殖幹)細胞のDNAメチル化変化について継続してデータ検討を行った(京大・篠原との共同研究);精巣内のセルトリ細胞及び生殖細胞から得られた転写物データについて詳細な検討を行なった(徳島大・立花との共同研究)。(2)遺伝子ノックアウト生殖細胞・胚の解析:Uhrf1欠損卵子・初期胚のDNAメチル化解析を行い、母性Uhrf1が卵子におけるde novoメチル化及び受精後の維持メチル化に必須であることを見つけた(投稿中);Miwi、Mili、Pld6欠損卵子の解析結果から、雌雄の生殖細胞におけるpiRNA合成機構の違いを明らかにした(Nucl. Acids Res. 2017)(京大・中馬との共同研究)。G9a、Eset、Stellaの欠損卵子・初期胚を採取し、DNAメチル化及び転写物のデータ取得を行った(長浜バイオ大・中村との共同研究)。これらの卵子や初期胚の解析と保存に必要な冷却遠心機とフリーザーを備品として購入した。(3)Uhrf1により制御される卵子タンパク質をプロテオミクス解析により同定し、GO解析、パスウェイ解析などにより機能を推定した;ES細胞で高発現するZfp57が、インプリント遺伝子以外の単アレル性発現遺伝子を制御することを見つけ、論文にまとめた(投稿中)。
2: おおむね順調に進展している
交付申請時に記載した3つの項目について、それぞれ予定した計画を達成した。(1)については、ES細胞から誘導した始原生殖細胞及びさらにこれから誘導した精子幹細胞に関する成果を論文として発表できたほか、すでにデータ解析を終えた幾つかの仕事について、論文の取りまとめに向けた作業が進んでいる。(2)については、以前から進めていたpiRNA合成関連因子に関するノックアウト卵子の成果を論文として発表したほか、他のノックアウトマウスについてもデータ取得と解析が順調に進んだ。(3)については、Uhrf1により制御される卵子タンパク質の候補の解析を進めており、Zfp57の予期せぬ働きが明らかになり、後者についてはすでに論文を投稿中である。
(1)については、エピゲノム解析支援として実施した、長期培養下のGS細胞のDNAメチル化変化(領域内の京大・篠原らとの共同研究)、及び精巣内セルトリ細胞及び生殖細胞のトランスクリプトーム変化(領域内の徳島大・立花らとの共同研究)について、データ解析を支援して共同研究者らの論文作成を促進する。(2)については、G9a、Eset、Stella(理研真貝及び長浜バイオ大中村との共同研究)の欠損卵子、及びそれに由来する胚の全ゲノムDNAメチル化解析やトランスクリプトーム解析を進め、これらのエピジェネティクス制御因子がゲノムインプリンティングや胚発生に果たす役割を明らかにする。(3)のプロテオミクス解析によりUhrf1が細胞質の微小管を制御するという新たな機能が明らかになりつつあり、この研究を完成させ論文にまとめる。既知因子との相互作用を指標とするプロテオミクス解析や候補アプローチにより同定された新規因子、及びそれらと相互作用するドメインの解析を進め、領域終了後にも役立つ研究推進のための土台を作る。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 6件、 招待講演 11件) 備考 (1件)
Nucl. Acids Res.
巻: - ページ: in press
doi: 10.1093/nar/gkx027.
Dev. Cell
巻: 39 ページ: 87-103
doi: 10.1016/j.devcel.2016.08.008
Cell Rep.
巻: 17 ページ: 2789-2804
doi: 10.1016/j.celrep.2016.11.026.
実験医学 34,(増刊号) エピゲノム研究-修飾の全体像の理解から先制・個別化医療へ
巻: - ページ: 1549-1553
実験医学別冊 マウス表現型解析スタンダード(伊川正人・高橋智・若菜茂晴編集)
巻: - ページ: 267-274
http://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/labo/epigenome/index.html