計画研究
維管束植物の根系は、水分・養分の吸収、地上部の支持など、個体の生育にとって重要な役割を果たす。しかし、種によって異なる根系パターンの多様性を生み出す機構など、根の成長・発生の機構には未解明な点が数多く残されている。本研究では、植物が進化させてきた「根の成長・発生ロジック」の解明を目指し、シロイヌナズナおよび近縁種のタネツケバナ属ミチタネツケバナを用いて以下の3つの研究項目に取り組んだ。<研究項目1:側根の発生ロジック>シロイヌナズナの側根形成開始を制御する鍵転写因子LBD16の下流遺伝子のうち、TOLS1(MAKR4)は側根形成開始を正に制御し、TOLS2(分泌型ペプチド)、およびPUCHI(AP2型転写因子)は側根形成開始を負に制御する。TOLS2は分泌型ペプチドをコードしており、PUCHIの機能を一部介して側根形成密度を低下させる。本年度、TOLS1遺伝子の機能欠損植物を作出し、解析を行った。また、順遺伝学的・逆遺伝学的に同定したTOLS2-PUCHIによる側根形成抑制シグナリングに関わる受容体や複数の因子について発現および機能解析を行った。<研究項目2:放射パターン形成ロジック>根の皮層の多層化機構を明らかにする目的で、根の皮層が2層(皮層2層・内皮1層)からなるタネツケバナ属ミチタネツケバナを用いて、皮層・内皮始原細胞の娘細胞における並層分裂の様式に異常を示す変異体として単離したsingle ground tissue layer(sgr)変異体、およびtwo ground tissue layer(tgr)変異体を解析した。<研究項目3:根の成長・発生を制御する未知の代謝システム>根端分裂組織の維持に必須なプラスチド型フルクトース1,6-二リン酸アルドラーゼ1(FBA1)の変異体の表現型解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
研究項目1、2に主に力を注いだため、3については当初の目標よりやや遅れたが、おおむね順調に進展している。特に<研究項目1>では、側根形成開始を制御する転写活性化因子LBD16の下流において、TOLS2がコードする低分子分泌型ペプチドがPUCHIの機能を一部介して側根形成頻度を低下させること、およびTOLS2ペプチドがPUCHIの転写を誘導することに基づき、TOLS2-PUCHIによる側根形成抑制シグナリングに関わる因子を昨年度に引き続き順遺伝学的・逆遺伝学的に同定した。これらの解析から、側根の形成頻度を制御する新たな制御機構の存在を示唆することができ、当初の目標をおおむね順調に達成した。一方、<研究項目2>では、ミチタネツケバナの根の皮層・内皮層の形成に異常のある突然変異体の解析から、皮層・内皮の形成に必要な遺伝子としてシロイヌナズナSHORT-ROOTのホモログ遺伝子ChSHRに加えて、サイトカイニン受容体遺伝子が皮層・内皮層の形成に関わることが示唆され、当初の目標をおおむね順調に達成した。
研究項目1と2については興味深い成果が得られており、側根形成頻度を決定するTOLS2ペプチドシグナリングの実体や、皮層の多層化機構における植物ホルモンの役割について今後さらに明らかにしていく。研究項目3も引き続き進展させる。<研究項目1>側根形成開始を制御する転写活性化因子LBD16の下流において、TOLS1が側根形成を正に制御する機構について、TOLS1遺伝子の機能欠損植物の解析により明らかにする。また、TOLS2-PUCHIによる側根形成抑制シグナリングの機構を明らかにするため、TOLSペプチドによるPUCHI遺伝子レポーターの発現誘導パターンが変化する複数の変異体について引き続き遺伝学的解析と表現型解析を進めるとともに、原因遺伝子の同定と解析を行う。<研究項目2>ミチタネツケバナの根の皮層多層化機構におけるサイトカイニンの役割を、tgr変異体の解析や原因遺伝子の発現解析・機能解析から明らかにする。<研究項目3>根の成長・発生に関わる代謝物質を同定する目的で、野生型およびfba1変異体における代謝産物をメタボローム解析によって定量・比較する。
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 5件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件) 備考 (2件)
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