研究領域 | 植物発生ロジックの多元的開拓 |
研究課題/領域番号 |
25113005
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
荒木 崇 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00273433)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 植物 / 有性生殖 / 花成 / 生殖器官形成 / 代謝 / 複合オミクス解析 / シロイヌナズナ / ゼニゴケ |
研究実績の概要 |
研究項目1 FT蛋白質の篩管を介した輸送過程の時間的側面と輸送に関わるアミノ酸残基の同定に関する論文をまとめ、現在投稿中である。また、篩部伴細胞で発現させたFT:EGFP蛋白質が細胞間移行により茎頂分裂組織全体に移動することを確認し、この輸送が阻害される突然変異体のスクリーニングを進めている。変異体候補が得られ始めている。茎頂におけるフロリゲン複合体形成に関しては、パートナーであるbZIP転写因子FDのリン酸化を実証し、当該キナーゼを同定した。複合体形成を仲介する14-3-3蛋白質については、FT遺伝子の発現制御とフロリゲン複合体形成の両面から慎重に解析を進めている。栄養・代謝と花成制御に関しては、無機栄養環境によるFT遺伝子の発現制御を介した花成調節という未開拓の研究課題に着手した。 研究項目2 環境要因に応答した生殖器官の形成誘導に関しては、SPL転写因子のひとつMpSPL1が分枝の生殖枝への分化を調節していることを明らかにした。生殖器官分化・配偶子形成に関しては、造精器のトランスクリプトーム解析とメタボローム解析を継続した。前者では16個の造精器特異的な転写因子を見いだし、遺伝子破壊株の作出と表現型解析を進めている。精細胞分化の鍵となる制御因子の候補などが得られている。遺伝子発現パターンの解析系を確立し、発現パターンのカタログ化や発現制御関係の解析に着手した。以上の概要まとめた論文の投稿準備がほぼ整った。一方、メタボローム解析では、昨年度に得たデータの解析をおこない、一次代謝などについて興味深い知見が得られた。受精と初期胚発生に関しては、転写因子LFYが接合子(受精卵)の最初の分裂に必須ではないことが明らかになった。胚発生過程の記載的な解析を進めており、第一分裂の時期や分裂面の位置について興味深い知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目1(シロイヌナズナ・花成)では、今年度の優先課題であったFT蛋白質の輸送に関して、これまでの成果のまとめと、輸送に関わる因子を同定するための系の確立ができた。後者に関しては、突然変異体の候補が得られつつあり、概ね順調に進んでいる。FT蛋白質の輸送と糖転流の関連に関しては、昨年度の知見をもとにnakr1変異体の解析を進めたが、糖転流を介した輸送への関わりよりも、無機栄養環境を介したFT遺伝子の発現制御への関わりが重要であると考えるにいたった。無機栄養環境による花成調節は未開拓の課題であることを考え、この観点から、改めて研究を継続することにした。研究内容の部分的な変更はあったが、栄養・代謝と花成という枠組みの中で興味深い課題を見いだせたと考えている。また、フロリゲン複合体形成に関わる因子に関する成果公表もできた。 研究項目2(ゼニゴケ・有性生殖)では、今年度は、造精器分化と精子形成、受精後の胚発生の2つに関して、研究が進んでいる他の生物と対比して、ゼニゴケ(基部陸上職物)における発生ロジックを明らかにすることを主眼に研究を進めた。成果公表にまではこぎ着けなかったが、どちらに関しても順調に進んでいる。造精器分化と精子形成に関しては、トランスクリプトーム解析により、これらの過程の大まかな枠組みの記述が可能になるとともに、今後の研究の展開のための萌芽を多数得ることできた。トランスクリプトーム解析により同定した転写因子遺伝子には、精細胞分化の鍵因子候補もあり、国際的な共同研究により研究を進めることになった。受精後の胚発生に関しては、研究が先行しているヒメツリガネゴケ(蘚類)との相違も含めて、基部陸上植物ゼニゴケ(苔類)における発生ロジックを明らかにできるという手応えを得つつある。 これらを総合的に評価して「概ね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目1(シロイヌナズナ・花成)では、これまでの研究で確立した輸送に関わる因子を同定するための系(proSUC2:FT-EGFP; ft形質転換体におけるGFP蛍光の様態と花成表現型を指標にしたスクリーニング)を、優先課題として進め、輸送に関わる因子の変異体の単離と遺伝子同定のための解析の完了を目指す。並行して、nakr1変異体と水耕栽培を用いた解析系により、無機栄養環境による花成制御機構の研究を進める。これらの進展を見ながら、可能であればC/Nバランスによる花成制御の解析・評価系の構築に着手する。 研究項目2(ゼニゴケ・有性生殖)については、これまでの研究を継続し発展させる。造精器分化と精子形成に関しては、解析が進んでいる転写因子を優先して研究を進める。特に国際共同研究により進めている精細胞分化の鍵因子候補については、早期の成果公表を目指して研究を加速したい。また、メタボローム解析では、細胞増殖と代謝という観点から、呼吸やアミノ酸代謝に関して得た興味深い予備的な知見の検証を優先課題として研究を進める。これらと並行して、発生途上の造精器の培養系の確立も試みたい。受精後の胚発生に関しては、これまでほとんど得られていない初期発生過程に関する知見を得るための記載的な研究を進める。未受精卵と受精卵をそれぞれ含む造卵器のトランスクリプトーム解析をおこなう。また、可能であれば、培養系の確立や、研究領域内の共同研究によって初期胚発生過程の1細胞解析にも挑みたいと考えている。
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備考 |
(2)は、「分子代謝制御学分野」を選ぶと5分あまりの研究紹介動画を見ることができる。
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