研究実績の概要 |
植物の組織分化は、①位置情報に基づく運命決定、②組織特異的な遺伝子発現制御系の樹立、③代謝産物の集積や細胞形態の獲得による特異的機能の発現、の3段階に分けて考えることができる。本研究課題では、これらのうち①と③の段階を明らかにする。 上記①について、細胞非自律的なmiRNAを介した細胞間伝達が植物の発生に普遍的な機能を果たしているかについて、シロイヌナズナの根冠細胞の分化を対象とした解析をおこなった。根冠細胞の分化にはオーキシン応答性転写因子であるARF10とARF16が重要な役割を果たす。ARF10とARF16はmiR160による転写後抑制を受けているが、その詳細なメカニズムは知られていなかった。miR160は、MIR160A, MIR160B, MIR160Cの3遺伝子座から産生されるが、これらのレポーターラインを作製して発現解析を行ったところ、miR160が根の内皮細胞より内側で産生されることが分かった。一方でセンサー植物を作製して解析したところ、miR160の活性は内皮よりも外側の細胞層にまで広がっていた。すなわちmiR160が細胞非自律的に機能することが明らかとなった。その発生学的意義を解析するため、miR160耐性変異を導入したARF10遺伝子を自身のプロモーター下で発現させたところ、根冠分化の指標であるアミロプラストが通常の根冠分化領域の外側にまで拡張していた。以上の結果から、シロイヌナズナの根端分裂組織において、miR160を含めた複数のmiRNA分子種が細胞非自律的に機能し、組織分化を調整している可能性が示唆された。 また上記③の段階に関しては、根冠分化のマスター制御因子であるSMB, BRN1/2転写因子の下流で機能する代謝酵素遺伝子を、マイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析により同定した。
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