研究領域 | 植物発生ロジックの多元的開拓 |
研究課題/領域番号 |
25113007
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
中島 敬二 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (80273853)
|
研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
|
キーワード | 植物 / パターン形成 / 根冠 / マイクロRNA / ゼニゴケ / 生殖細胞 / 性分化 / 胚発生 |
研究実績の概要 |
1.根冠細胞の運命決定と機能発現の制御機構:伸長する根の先端を自動的に追尾する顕微鏡システムを開発し、シロイヌナズナの根冠剥離の動態を解析した。野生型植物の根冠剥離には明確な周期性が見られた。根冠細胞の剥離を制御するBRN転写因子の欠損変異体では、剥離の完了が起こらないにもかかわらず、野生型と同様の周期で剥離が開始された。このことから、根冠剥離の開始が未知の内性リズムに応じて活性化されることが示唆された。また剥離する根冠細胞の細胞壁分解に関与するRCPG遺伝子の変異体では、剥離の開始が遅れるのみならず、根冠細胞層が根から脱離しなかった。これらの実験を通じライブイメージングの意義が確かめられた。 2.マイクロRNAの産生制御を介した胚パターン形成の制御機構:我々は初期球状胚におけるmiR165/6の空間的な発現制御が、胚パターンの形成に重要な役割を果たすことを明らかにしている。MIR165/6遺伝子のプロモーター解析と、既知の転写因子の変異体を用いた解析を組み合わせることにより、miR165/6産生の空間的制御を介した胚パターン形成の制御系が明らかとなった。 3.ゼニゴケを用いた雌性発現の制御機構と実働遺伝子群の同定:ゼニゴケの卵成熟過程で細胞壁を構成するセルロースやヘミセルロースの分解が起こること、また、卵細胞自身が産生するペクチンが卵の周囲の空隙に大量に分泌されることを示唆する結果を得た。また、ゼニゴケ造卵器とシロイヌナズナ雌性配偶子の比較トランスクリプトーム解析から、両者で共通して発現する相同な転写因子FGMYBを同定した。この遺伝子をノックアウトしたゼニゴケでは、染色体構成上はメスであるにも関わらず、野生型のオスと見分けがつかない生殖器官を形成し精子を形成した。以上の結果から、FGMYBが陸上植物の進化において保存された雌性発現の制御因子であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度は、①根冠細胞を用いた細胞分化の制御因子から実働因子へ至る経路の解明、②マイクロRNAによるパターン形成の制御、③ゼニゴケを用いた性分化機構の解明の3つのテーマで、それぞれ新たな発見が得られた。①においては、根冠剥離の制御因子であるBRN1/2が細胞壁分解酵素遺伝子のRCPGを直接転写制御することを論文発表し、さらに独自に開発した水平光軸型動体トラッキング顕微鏡を用いて、従来の方法では捉えられなかった根冠剥離の周期性を発見することに成功した。②については胚の最外層で特異的に発現する転写因子がマイクロRNAの産生を制御し、これによって発現領域が限定される下流転写因子のネガティブフィードバックにより、初期胚の遺伝子発現ドメインが形成される機構の発見に成功した。これは初期胚のパターンが、比較的少数の遺伝子間の相互作用により自律的に形成されることを示す重要な成果である。③については、単一の転写因子の変異によりゼニゴケの性がほぼ完全に転換することを発見した。種子植物においては相同な転写因子が雌性配偶体の分化を促進することが報告されており、陸上植物における性分化の進化を考察する上で重要な研究成果を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
根冠の剥離がBRN1/2転写因子により直接発現制御される実働遺因子に依存して促進されることが明らかとなった。これまでの研究を通じて、ほかにも多数のBRN1/2標的遺伝子を同定しており、これらの中には、プログラム細胞死、膜交通、防御応答に関与すると推定される遺伝子が存在する。今後はこれらの未知遺伝子の機能解析を通じ、根冠に特有の生理機能とその制御系を明らかにする。また根冠剥離の時空間的制御を担うメカニズムは全く分かっていないが、本研究課題で開発した顕微鏡システムを用いて新たな因子の探索や作用機序の解明を行う。マイクロRNAを介した胚パターン形成の制御については、上流転写因子がマイクロRNAの遺伝子領域に直接結合するかを解析し、さらにシス配列を同定してゆく。雌性発現の制御機構については、FGMYBに制御される下流遺伝子群をゼニゴケとシロイヌナズナで同定し、それらの機能を比較解析することで、陸上植物の進化に共通した雌性分化の実体とその制御系を明らかにしてゆく。
|