研究領域 | 植物発生ロジックの多元的開拓 |
研究課題/領域番号 |
25113008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平野 博之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (00192716)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 発生・分化 / 花序構築 / 小穂 / 花 / メリステム / 遺伝学 / 遺伝子 / イネ |
研究実績の概要 |
イネの花序は,穂軸,ブランチ,小穂から構成され,小穂は小花(花)と外穎や内穎などいくつかの側生器官から成る.本研究は,この高い階層性を持つイネの花序の構築および花の発生ロジックを解明することを目的としている.fon2変異を昂進する変異体 (fon2 enhancer 2B-424),一次ブランチが偽輪生の表現型を示すpvp1, 小穂の形態異常を示すtol変異体 (wadより改名)やfsp1変異体などを用いて,発生遺伝学的研究を行った. FON2は花メリステムの幹細胞維持の負の制御因子であり,fon2変異体では花メリステムが肥大する結果,花器官数が増加する.2B-424系統はfon2変異を昂進する変異体の一つである.昂進変異の原因遺伝子を同定した結果,クラスC遺伝子のOsMADS3に機能喪失型の変異が起きていることが判明した.この研究により,FON2とOsMADS3が共同して花メリステムの有限性を制御していること,OsMADS3が花メリステムの維持制御にも関わっていることが明らかとなった (Yasui et al. 2017). tol変異体の表現型を詳細に解析し,この変異体では小穂の左右相称性がそこなわれ,対称軸が2つ形成されるようになること,その原因はメリステム増大や部分的な活性低下であることを明らかにした (Sugiyama et al. 2016).fsp1変異体の原因遺伝子の単離を試みたところ,メリステム維持に関わるFON1遺伝子に変異が起きていることが示された.fsp1の小穂には,fon1小穂に見られる異常に加えて他の表現型が現れることから,未知の第2の遺伝子に変異が生じている可能性が示唆された. PVP1に関しては,この遺伝子の近縁パラログであるPVP2と併せて解析を行い,これら2つの遺伝子が穂の構築に冗長的に作用していることを明らかにし,メリステム機能との関連を解析中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
fon2 enhancer に関しては,2B-424と1B-280の2つの変異系統の解析を進めている.2B-424については,原因遺伝子の単離や昂進遺伝子の機能解析などが完了し,大きな成果が得られた.その成果は論文として公表した.1B-280に関しても,順調に研究は進んでおり,メリステムの幹細胞維持の新たな因子が同定されている.fon2 enhancer に関しては,予想を上回って研究が進展している. tol1に関しては発生遺伝学的な解析結果を,論文としてまとめ,発表した.原因遺伝子の同定にも成功しているが,tol1変異は,同定した遺伝子以外にも変異が生じている可能性があり,今後の研究の展開は慎重に行う必要がある. PVP1やPVP2に関しても,順調に研究が進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
fon2 昂進変異体1B-280 と PVP1, PVP2遺伝子の研究を,重点的に推進する.1B-280とpvp1変異体の原因遺伝子は単離されているので,相補性検定やCRISPR-Cas9方による遺伝子ノックアウトにより,その確認をとる.1B-280 に関しては,トランスクリプトーム解析解析を行い,メリステム維持に関わる遺伝的ネットワークを解明する.PVP1とPVP2に関しては,花序メリステムやブランチメリステムにおけるこれら遺伝子の機能を明らかにする.いずれのテーマも,できれば今年度中に論文としてまとめて,投稿したいと考えている.
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